研究実績の概要 |
昨年度までに、内包損傷を伴う脳出血モデル動物を対象とした介入実験は完了しており、行動評価の結果から、α5GABA受容体の特異的阻害薬(L-655,708)とトレッドミルによる走行運動は、それぞれ単独での機能回復効果は限定的であるものの、各介入を併用することにより脳出血後の運動機能回復が効果的に促進する所見が得られていた。本年度は、これらの個体から採取した脳・脊髄サンプルの解析を進め、併用介入群の機能回復に寄与した可塑性修飾について検証を行った。 生化学的解析による蛋白発現定量の結果、いずれの介入も脊髄における神経栄養因子(BDNF)の発現を増強する所見が認められた。また、L-655,708投与は同領域において軸索発芽マーカー(GAP-43)の発現を増強しており、さらに、L-655,708投与と運動介入を併用した群においては, シナプスマーカー(Synaptophysin)と成長阻害因子(Nogo-A)の発現増強も認められた。また、併用介入群の脊髄では、 BDNFの高親和受容体(TrkB)やGAP-43、Synaptophysinの遺伝子発現も増強していることが明らかとなった。このことから、併用介入群の効果的な機能回復には、脳内の可塑性修飾のみならず病巣から離れた脊髄における軸索発芽やシナプス形成、さらには成長阻害因子による神経回路の安定化などが関与していることが示唆された。 これら一連の所見は、GABA受容体の特定のサブユニットを標的とする薬理的神経制御が、中枢神経系の幅広い領域で可塑性修飾をもたらすことに加え、リハビリテーションと併用することで脊髄領域での可塑性が強化され、脳卒中後の機能回復に有益に寄与する可能性を示している。
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