研究課題/領域番号 |
19J23557
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
須川 毅 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | Pd / 多環式芳香族化合物 / 遷移金属錯体 / 多核クラスター |
研究実績の概要 |
本年度は拡張π共役多環式アレーンとしてペンタセンに焦点をあて、ペンタセンを架橋配位子に有する多核Pdクラスターの合成を行った。昨年度までの予備的な研究でペンタセン配位子が挟み込んだ五核Pdクラスターが合成できることを明らかにしていた。ペンタセン配位子はさらなるPd原子の受容能があると考え、反応条件検討を行った。その結果、新たにペンタセン配位子二つを有する二核Pd錯体および七核Pd錯体をESI-MS測定で観測した。NMRスペクトル測定においてもこれらの錯体由来と考えられるピークを観測した。二核錯体についてNMRスペクトルの帰属をすることはできていないが、七核錯体については各種NMRスペクトルの帰属を行い、溶液中の構造について同定した。二核錯体および七核錯体の結晶構造解析による構造決定は今後検討していく。 同じ配位子を有する核数の異なるPdクラスターを合成し、その錯体同士の関係性を明らかにすることは、多環式アレーンと遷移金属クラスターとの結合相互作用に対する理解を深めることにつながると考えられる。特により核数の多い平面型の遷移金属クラスターの合成とその構造解明は、sp2炭素平面と金属クラスターとの間の面間相互作用を解明する上での基本的な知見を与える期待される。また、同一の架橋配位子を有する核数の異なるPdクラスター間の関係性を明らかにすることで、均一系での遷移金属クラスター形成メカニズムに関する知見を得ることができる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、シクロオクタテトラエンを背面配位子として用いて、アレーン配位子交換反応によって縮環数が5環以上の拡張多環式アレーンを架橋配位子とした三核および四核Pdクラスターの合成を行う予定であった。しかし、昨年度末から行っていたペンタセン配位子を有する多核Pdクラスターの研究において、新たにペンタセン配位子二つを有する二核Pd錯体および七核Pd錯体をESI-MS測定で観測した。ペンタセン配位子を有する二核、五核および七核錯体の単離、構造解析やこれら錯体での相互変換の検討を行うことは、本研究の目的とする多環式アレーンと遷移金属クラスターとの結合相互作用に対する理解を深めることにつながると考えた。そこで、ペンタセン架橋配位子を有する多核Pdクラスターの合成および単離検討を本年度は行った。 七核Pd錯体についてはNMRスペクトルの帰属を行うこともできており、溶液中の構造を同定するに至っている。一方で、無置換ペンタセンを用いた検討において二核Pd錯体の収率が非常に低く、NMRスペクトルの帰属も行うことができなかったため、置換ペンタセンの合成とそれを用いたPd錯体合成の検討を行った。溶解性の高いビスアルケニルペンタセンを用いて二核Pdクラスター形成検討を行ったが、目的の二核Pdクラスターは得られなかった。そのため、ペンタセン配位子を有する二核Pdクラスターについて高収率の合成を達成するという点で研究を進めることがあまりできなかったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き拡張π共役多環式アレーンを架橋配位子に有する多核遷移金属クラスターの合成を行っていく。中心金属もM-M集合性が高く温和な条件で熱力学的安定物を単一生成物として与えるPd をこれからも用いる。多核Pdクラスター形成において、I価Pd二核錯体と0価Pd錯体を原料としたレドックス縮合反応の有用性は本年度の研究からも確認することができたので、このレドックス縮合反応を中心に拡張多環式アレーン-多核Pdクラスター合成の検討を進めていく。 また、本年度の研究では、Pdクラスター形成反応の反応条件を調整することで核数の少ないPdクラスターの生成を観測した。これは核数の少ないPdクラスターが、多核Pdクラスターの前駆体として生成している可能性を示唆していると考えている。そこで、拡張π共役多環式アレーンを架橋配位子に有する多核遷移金属クラスターの合成とともに、少核数のPdクラスター合成検討も行う。核数の異なるサンドイッチ錯体間の化学変換を行い、均一系での遷移金属クラスター形成のメカニズムについて知見を得ることも目的とする。拡張多環式アレーンの溶解性は本年度も研究遂行における障害となったため、嵩高い置換基の導入や嵩高いカウンターイオンの導入でこの課題解決に取り組む。
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