研究課題/領域番号 |
19J23587
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中根 丈太郎 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
キーワード | 反強磁性体 / スピントロニクス / 微小領域磁性 / スピン流 / 理論 |
研究実績の概要 |
第一年度は研究課題に取り組むための下準備として、反強磁性金属における輸送現象(反強磁性体におけるトポロジカルホール効果およびトポロジカルスピンホール効果)、および、反強磁性体の磁化ダイナミクスに関する研究(反強磁性体磁壁の磁場駆動)を行った。 前者の研究については、キャントした反強磁性体におけるトポロジカルホール効果の計算に取り組んだ。これは、静的な磁化構造を背景にした輸送係数の計算である。スピンテクスチャはスピンゲージ場による取り扱いとし、久保公式を用いてスピンテクスチャに起因する横伝導度を計算した。また、キャンティングによる反強磁性体の一様成分は摂動として取り入れた。結果、反強磁性体におけるスピン輸送の一般的様相や、創発地場の発見など、一般性のある結論を引き出すなど重要な進展があった。三月に論文を査読付きの科学雑誌に投稿し、五月にアクセプトされた。並行してキャンティングが大きい場合の反強磁性体の取り扱いの理論を構築し、トポロジカルホール係数を計算した。また、解析的な結果が連続的に強磁性体に移行する様子も確認した。 後者の研究については、反強磁性体における磁壁の運動を、集団座標で扱う方法を整備した。この研究は海外で注目されている先行研究を修正するもので、重要な結果だと思われる。これについても現在論文を執筆中である。 第二年度では、反強磁性体における(uniform, staggered)スピン密度を計算し、反強磁性体磁壁駆動を調べる予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一年度は本研究課題に取り組む準備のための理論構築を行った。反強磁性金属におけるトポロジカルホール効果の研究を通じて、反強磁性体のグリーン関数を用いた線形応答の計算や、反強磁性体におけるスピンテクスチャーのスピンゲージ場を用いた取り扱いに必要となる理論構築を行った。この下地をもとに、反強磁性体磁壁駆動の計算に必要なスピントルクの計算を今後実行できる。具体的には、トポロジカルホール効果の時に用いた久保公式で計算した電流・電流相関関数を、電流・(uniform, staggered)スピン相関関数に変更すればよい。 上に述べた方法で反強磁性体における電流駆動スピン密度を計算できるが、それだけではスピントルクや反強磁性磁壁駆動は議論できない。磁壁駆動を議論するためには反強磁性体スピンの運動方程式と、磁壁の集団座標の手法を確立する必要がある。この手法を確立する過程で、反強磁性体磁壁の磁場駆動の先行研究に間違いがあることに気付き、正しい結果を導出した。 これらの研究は特別研究員が主体的に進めたもので、本研究課題に取り組む準備を十分整えることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
第二年度は第一年度に培ったノウハウを利用して先ずuniformとstaggeredスピン密度を計算する。これらのスピン密度が反強磁性スピンの運動方程式にどう寄与するか調べ、最終的に反強磁性磁壁への力としてどうあらわされるか調べる。 スピン密度の計算は、第一年度にホール係数の計算で利用した久保公式を用いる。ただし、今回は電流・電流相関関数の代わりに、(staggered, uniform)スピン密度・電流相関関数を計算する。相関関数を計算する際のバーテックス補正(この場合は反強磁性体中の電子の非磁性不純物による横スピン緩和の効果)が反強磁性体中のスピン密度にどう寄与するかは非常に興味深い問題である。スピン密度が分かった後は、それを第一年度の磁壁の磁場駆動を調べた際得た反強磁性スピンの運動方程式に代入して、どういったスピントルクが生じるか調べる。また、集団座標の方法を用いて、そのスピントルクがどのように反強磁性磁壁を駆動するか調べる。
|