第3年度は、反強磁性体の電流誘起トルクの微視的計算を行い、筆頭著者として論文2報を発表した。 1報目は反強磁性体磁壁駆動の理論に関する論文である。本論文では反強磁性体におけるスピン移行トルク、その散逸補正、ダンピングトルクを微視的に計算した。散逸補正とダンピングトルクを計算するには磁性不純物を考慮する必要があった。微視的計算から、散逸補正とダンピングトルクが強磁性体のものと類似していること、またスピン移行トルクが強磁性体のものと逆符号であることを示した。スピン移行トルクが逆符号であることは、電流誘起磁壁駆動の方向が反強磁性体と強磁性体で逆であることを意味する。この結果は角運動補償点におけるフェリ磁性体GdFeCo(反強磁性的な磁化ダイナミクスが期待される)の実験結果を説明するものである。 2報目は反強磁性マグノンのドップラーシフトに関する論文である。1報目では従来通り一種類のスピン移行トルクしか計算していなかったが、2報目では反強磁性体に二種類のオーダーパラメター(ネール成分と一様成分)が存在することに着目し、それぞれに対応するスピン移行トルク(v_nとv_l)があることを示した。そして、反強磁性マグノンのドップラーシフトは(v_n+v_l)/2で与えられることがわかった。また、伝導電子については最近接ホッピング(t)のほかに次近接ホッピング(t’)まで含めて計算した。伝導電子のホッピングtがt’よりも大きいときは反強磁性的なトランスポート、t’がtより大きいときは強磁性的なトランスポートを表す。反強磁性的なトランスポート領域ではv_nとv_lは逆符号で与えられ、ドップラーシフトは伝導電子の化学ポテンシャルによって符号を変える。対して強磁性的トランスポート領域では両スピン移行トルクが強磁性体におけるスピン移行トルクの表式と一致することが分かった。
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