研究課題/領域番号 |
19J23598
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研究機関 | 麻布大学 |
研究代表者 |
並木 貴文 麻布大学, 獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 着床 / 妊娠 / 脱落膜 / 小胞体 |
研究実績の概要 |
本年度では,実験(1)として,マウス胚着床・脱落膜化における小胞体タンパク質(ERp29)の役割について,野生型および子宮特異的ERp29欠損マウス(ERp29 cKO)を用いて検討した.また,実験(2)として,ヒト胎盤由来の子宮内膜から分離したHuman Uterine Fibroblast cell(HuF cell)を用いることで,ヒト脱落膜化における小胞体ストレス関連因子のmRNA発現量の解析を行った. 実験(1)の結果として,野生型マウスにおいて,ERp29は,着床後の子宮組織においてmRNA発現量は著しく増加し,タンパク質の局在は,子宮間質細胞に強く発現が見られた.またERp29 cKO区では,対象区(ERp29flox/flox)と比較して,有意に平気産仔数が減少した.さらに尾静脈からChicago Blue Dye投与した結果から,対照区およびERp29 cKO区ともに胚着床を示したが,妊娠8日目の子宮サンプリングから一部のERp29 cKO区の子宮において胚仔の死滅を確認した. さらに免疫組織化学染色から,対象区と比較してERp29 cKO区では,小胞体ストレス関連因子(ATF4)の発現が子宮間質細胞にて増加した. また実験(2)において,ホルモン処理(エストロジェンおよびプロジェステロン)による脱落膜化誘起HuF cellからmRNAを回収し,q-PCRにて小胞体ストレス関連因子の発現量を解析した.その結果,ホルモン処理区においてERp29および小胞体ストレス関連因子(ATF6,IRE1等)のmRNAは増加傾向を示した. 以上のことから,マウスおよびヒト子宮内膜細胞の脱落膜化において,小胞体タンパク質(ERp29)が重要な役割もつ可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、野生型マウスを用いた実験(1)から小胞体タンパク質(ERp29)mRNA発現量は胚着床後の子宮組織において有意に増加し,タンパク質は胚着床後の間質細胞で強く発現することを明らかとした.さらに,Cre/loxPシステムを用いて子宮特異的ERp29欠損マウス(PgrCre/+ ERp29flox/flox)を作製した.妊孕性を確認した結果から,対象区(ERp29flox/flox)と比較して平均産仔数が有意に減少した.また,胚着床の有無を確認するために,尾静脈からChicago Blue Dye投与した.その結果から,対照区およびERp29 cKO区ともに胚着床を示したが,妊娠8日目の子宮サンプリングから一部のERp29 cKO区の子宮において胚仔の死滅を確認した.これらのことから,マウス子宮においてERp29が胚着床後の脱落膜化および胎盤形成に関与する可能性を示した. また実験(2)では,ヒト胎盤由来の子宮内膜から分離したHuman Uterine Fibroblast cell(HuF cell)を用いて,ホルモン処置(エストロジェンおよびプロジェステロン)による脱落膜化を行った.その結果,脱落膜化したHuF cellにおいてERp29および小胞体ストレス関連因子(ATF6,IRE1等) mRNA発現量は増加傾向を示した. 以上のことから,マウスおよびヒト子宮内膜細胞において小胞体タンパク質(ERp29)が新規脱落膜化因子として重要な役割を持つ可能性が示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
実験(1)新規脱落膜化関連因子(小胞体タンパク質ERp29)の機能解明 これまでに子宮特異的(PgrCre/+ ERp29flox/flox)ERp29欠損マウスの妊孕性の結果から,対照区(ERp29flox/flox)と比較して,子宮特異的ERp29欠損区におけるマウスの平均産仔数が有意に減少した.そこで,詳細なERp29の役割を理解するために,胚着床直後(D5)および胎盤形成(D8~)の子宮組織を回収し,分子生物学的(qPCRおよびWestern Blotting(WB)),組織学的実験(免疫組織化学(IHC))を行い,脱落膜化関連因子(Ki67およびBMP2等)の発現および局在を明らかにする.さらに, マウス子宮における他の小胞体ストレス関連因子と脱落膜化との関係を明らかにするため,同様に子宮組織を回収し,qPCR,WB,IHCを行うことで小胞体ストレス関連因子(ATF6,IRE1等)の発現および局在を調べる. 実験(2) ヒト子宮内膜細胞の脱落膜化における小胞体ストレス関連因子の機能解明 これまでのヒト胎盤由来の子宮内膜細胞(HuF cell)を用いた実験から,ERp29mRNA発現量は,脱落膜化後に増加傾向を示した.また,最新の研究結果から,ERp29は子宮内膜症に関わる小胞体ストレス関連因子(ATF6)との関連が報告されている.そこで,ヒト子宮内膜の脱落膜化に関わる小胞体ストレス関連因子のメカニズムを明らかにする目的で,脱落膜化誘起したヒト胎盤由来の子宮内膜細胞からmRNAおよびタンパク質を回収し,小胞体ストレス関連因子(ATF6,CHOP等)の発現量をq-PCRおよびWBにて解析を行う. 以上の研究を行うことで, 子宮における小胞体タンパク質の役割が明らかとなれば, 習慣性流産や妊娠に関連する疾患を予防できる可能性がある.
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