研究課題/領域番号 |
19J23608
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
加世田 将大 熊本大学, 生命科学研究部, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | シングルセル解析 / Alport症候群 / 糸球体硬化 |
研究実績の概要 |
昨年度までの結果より、糸球体のシングルセル化は解離によるストレスの影響が大きいことから、よりストレスの少ない方法である核を用いたSingle nucleus RNA-seq(snRNA-seq)解析に切り替え、検討を進めてきた.しかし、核を用いた本検討ではmRNAの大半を占める細胞質部位を解析に使用しないため、1細胞あたりの検出遺伝子数が平均で1,000遺伝子程度であることが明らかになった。そこで、ある程度のストレス遺伝子の混入を許容し、再度糸球体のシングルセル化に取り組み、Single cell RNA-seq(scRNA-seq)を実施した。結果、1細胞あたり2,000-4,000遺伝子を検出することに成功し、懸念されたストレス遺伝子の混入も最小限に留めることに成功した(ミトコンドリア遺伝子数10%程度)。現在は、WT、Alportモデルマウスの比較試験を実施している所であり、年度明けにシークエンス解析の結果が出る予定である。 また、上記と並行して糸球体シングルヌクレウス解析の結果から同定したCD44 cleavageという新たな病態増悪機序を明らかにすることにも成功している。今後、これらの機序の詳細を明らかにすることで新たな腎疾患アプローチの創出が見込める。 加えて、新たに可逆的Keap1阻害薬の開発とAlportモデルマウスへの有効性評価試験にも取り組み、腎機能、病理の改善、生存率の延長効果を有することを証明した。今後、シーズの最適化を図るとともに、腎病態改善機序の解明試験を実施する事で日本発の慢性腎臓病の治療薬開発が見込める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度実施した糸球体シングルヌクレウス解析の問題点(検出遺伝子数が少ない)を踏まえ、再度糸球体シングルセル解析に取り組んだ。結果、1,000遺伝子/細胞であった検出感度を2,000-4,000遺伝子/細胞まで高めることに成功した。来年度にはWT、Alport間の比較解析結果を得ることが出来る様進めている。 また、上記と並行して糸球体シングルヌクレウス解析より同定した糸球体硬化におけるCD44 Cleavageという新たな増悪機序を明らかにすることに成功している。しかしながら、それらを標的とした薬理学試験ではAlportモデルマウスのCD44 cleavageを阻害するまでには至っていない。今後、原因の解明を進めるとともに、CD44 cleavageが生じる機序の詳細を明らかにすることで新たな治療アプローチの創出を目指す。 加えて、新たに可逆的Keap1阻害薬の開発とAlportモデルマウスへの有効性評価試験にも取り組んだ。その結果、新規の可逆的Keap1阻害薬はAlportモデルマウスの腎機能・病理を改善し、生存期間を有意に延長することを同定した。一方で興味深いことに、臨床でBardoxolone methylが慢性腎臓病患者のGFRを改善する一方で、アルブミン尿を増加させるのと同様に、新規Keap1阻害薬もアルポートマウスのアルブミン尿やタンパク尿を増加させる現象を捉えている。今後、シーズの最適化を図るとともに、腎病態改善機序の解明試験を実施する事で日本発の慢性腎臓病治療薬の開発を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
今後は糸球体シングルセル解析の結果を基にAlport症候群の病態形成に重要な細胞とその因子の同定を試みる。具体的には各細胞種、あるいは細胞種内のクラスター毎にWT、Alportモデルマウス間で変動する遺伝子を同定する。その後、得られた標的がタンパク質レベルでも同様に変動するかを確認し、治療標的因子の絞り込みを行う。その後、それらの異常の是正を目的とした薬理学試験を実施し、有効性評価を行う。 加えて、糸球体シングルヌクレウス解析で同定した新たな腎病態増悪機構CD44 cleavageに関して機序の解明試験を実施する。具体的にはがんで報告のあるCD44 cleavage促進因子(MMPやADAM, γ-secretase)を標的に病態への関与を証明していく。薬効評価等により有効性が認められた場合、遺伝子改変マウス等を活用し、さらに詳細に病態への関与を証明する。 また、昨年度Alportモデルマウスへの有効性を同定した新規の可逆的Keap1阻害薬に関しては腎病態改善機序の解明試験を実施する。まずは、腎病態改善機序時に重要な経路の同定を目的に化合物投与後のAlportモデルマウスから糸球体を単離し、RNA-seq解析を実施する。興味深い変化が認められた場合は、糸球体シングルセル解析を実施し、より詳細に変化を捉える。並行して腎病態改善時に生じる変化を糸球体立体構造(SBF-SEM)や糸球体ろ過機能(サイズバリア・チャージバリア)の観点からも捉える。
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