研究課題/領域番号 |
19J23611
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
森井 清仁 滋賀県立大学, 環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 繁殖干渉 / 近縁種 / スジシマドジョウ / 琵琶湖 / 固有種 / 保全 / 淡水魚 / 種間相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究では、琵琶湖周辺に分布し絶滅が危惧されている2種の淡水魚(オオガタスジシマドジョウCobitis magnostriata、ビワコガタスジシマドジョウC. minamorii minamorii)について、その衰退要因を解明し、効果的な保全策を実施することを目指した。現在の両種の主要な繁殖地において、オオガタスジシマドジョウからビワコガタスジシマドジョウへの繁殖干渉が示唆されている。そこで、2017年12月に両種の繁殖地において、新たに浅い水域を造設し、繁殖場所を分割することで両種間の繁殖干渉を緩和させる保全策を実施した。 2019年度の研究では、ビワコガタスジシマドジョウの繁殖成功を調べることで、実施した保全策の効果を確かめた。ビワコガタスジシマドジョウは新たに増設した水域を中心に繁殖していた。また、オオガタスジシマドジョウとビワコガタスジシマドジョウの主な繁殖場所は異なっていた。これは、新たな水域の造設が両種の繁殖場所の分割を促進し、両種間の繁殖干渉を緩和したことを示唆している。 加えて、両種の稚魚の雑種を識別するために、核DNAを標的とした分子マーカーを設計し、オオガタスジシマドジョウに特異的なプライマー対を1対、ビワコガタスジシマドジョウに特異的なプライマー対を2対得た。ミトコンドリアDNAを標的とした分子マーカーにより、ビワコガタスジシマドジョウと判別された54個体の稚魚について上記のプライマー対を用いたPCRを行った結果、3個体が雑種であることが示された。したがって、ビワコガタスジシマドジョウのメスはオオガタスジシマドジョウのオスからの求愛を受けることが分かった。 ビワコガタスジシマドジョウの水槽環境における繁殖行動の観察を試みた。しかし、実験用の個体が死亡してしまい繁殖行動の観察を行うことができなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ビワコガタスジシマドジョウの保全のために、新たに浅い水域を増設し、両種の繁殖場所を分割を目指した保全策の効果の評価するための野外調査は当初の予定通りに実施され、オオガタスジシマドジョウとビワコガタスジシマドジョウの繁殖状況を把握することができた。ビワコガタスジシマドジョウの稚魚の個体数は2015年から207年にかけて減少し続けていたが、保全策を実施した後の2018年と2019年は増加に転じた。また、オオガタスジシマドジョウとビワコガタスジシマドジョウの主要な繁殖場所は異なっていた。これは、新たな水域の造設が両種の繁殖場所の分割を促進し、両種間の繁殖干渉を緩和したことを示唆し、調査地で行った保全策は少なくとも一定の効果があったといえる。 両種の稚魚の雑種を識別するための核DNAを標的とした分子マーカーを設計し、ミトコンドリアDNAでビワコガタスジシマドジョウと識別された稚魚のサンプルを対象に、分子生物学的実験を行った。その結果、オオガタスジシマドジョウに特異的なプライマー対を1対、ビワコガタスジシマドジョウに特異的なプライマー対を2対得た。ミトコンドリアDNAを標的とした分子マーカーによってビワコガタスジシマドジョウと判別された54個体の稚魚について上記のプライマー対を用いたPCRを行った結果、3個体が雑種であることが示された。 ビワコガタスジシマドジョウの水槽環境における繁殖行動の観察を試みた。実験用個体は2017年に採卵・孵化および仔稚魚の飼育をドジョウの種苗生産業者に委託したのち、滋賀県立大学内のエンクロージャーで飼育したものを用いた。2019年4月にエンクロージャーから性成熟した18ペアを回収し実験に用いるために雌雄別の水槽に隔離した。しかし、隔離した成魚のうち、メスのみがすべて死亡してしまったため観察を行うことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
オオガタスジシマドジョウとビワコガタスジシマドジョウの繁殖場所を分割を目指した保全策の効果を評価するための野外調査は継続して行う。ただし、両種の稚魚について、2019年度の研究により得られた核DNAを標的としたプライマー対と既存のミトコンドリアDNAを標的としたプライマー対を用いて、稚魚の雑種判別と雑種の父系および母系の判別を行う。この実験により、これまでよりも正確な両種の繁殖の実態を把握できる。 水槽環境におけるオオガタスジシマドジョウとビワコガタスジシマドジョウの種間の配偶行動の観察は、性成熟したメスに性腺刺激ホルモン剤を注入したのち、両種のペアを1つの水槽に入れ、夜間の行動を赤外線カメラで撮影することで行う。撮影した動画から、種間配偶の頻度やプロセスを解析する。また、滋賀県立大学内のエンクロージャーを用いた野外操作実験では、オオガタスジシマドジョウとビワコガタスジシマドジョウの単独区と共存区を設け、生まれた稚魚の数を指標にしてメスの繁殖成功度を評価する。野外におけるビワコガタスジシマドジョウの個体数は少なく、成魚を採集し実験に用いることは難しい。そのため、これらの実験には現在エンクロージャーで飼育しているビワコガタスジシマドジョウを用いる。 本研究のうち、野外調査で得られたデータをまとめ、論文として国際学術誌に投稿する。この論文では2015年から2020年に実施した6年間の野外調査のデータを用いて、実施した保全策の効果について議論する。
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