本研究では、ともに琵琶湖固有の希少淡水魚であるオオガタスジシマドジョウ(以下、オオガタ)とビワコガタスジシマドジョウ(コガタ)について、衰退要因を解明し、その知見を応用した保全策を実施・評価することを目指した。過去2年間の研究によって、オオガタからの繁殖干渉によりコガタが絶滅の危機にあることが示唆されている。しかし、野外での種間求愛の実態や繁殖成功に与える影響は不明であった。2021年度の研究では、野外ケージ内における種間の求愛行動を定量的に調べることで、種間求愛の実態解明を試みた。その結果、コガタのオスは同種のメスとオオガタのオスに対して、それぞれ2時間あたり平均7.90回と平均6.00回の追尾行動を行っており、コガタのオスは自種のメスだけでなく、オオガタのオスにも頻繁に求愛することが明らかになった。繁殖地における両種の頻度はオオガタに大きく偏っているため、コガタのオスが他種を追いかける行動はコガタのペア形成を難しくすると考えられた。野外環境で両種が交雑していることと合わせて考えると、コガタのメスは、同種のオスからの求愛機会の損失と、オオガタのオスからの雑種形成を含む種間求愛の2つの至近要因によって繁殖干渉が生じていると結論付けられた。 さらに、2015年から2017年の両種の繁殖成功度と、オオガタからコガタへの繁殖干渉を緩和することを目指した保全策を実施した後の2018年から2021年の繁殖成功度を比較することで、実施した保全策の効果を評価した。保全策実施後の調査において、新たに造設した水域を中心にコガタの稚魚が採捕され、コガタのメスの繁殖成功度も増加傾向になったことから、本研究で実施した保全策が有効であったことが示唆された。本研究は、繁殖干渉の知見を保全実践に応用した世界で初めての例であり、保全生態学における繁殖干渉の重要性を示している。
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