研究課題/領域番号 |
19J23654
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
公文 広樹 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | MEMS / 血小板 / マイクロ流体チップ / µTAS |
研究実績の概要 |
輸血用の血小板を人工的に作製することを目的として,現在,iPS細胞から巨核球を作製し,巨核球から血小板を産生する研究が行われている.いくつかのグループが,血小板産生に対する流体力の影響を評価するための小さなテストベンチとしてマイクロ流体チップを提案している.従来はスリットまたはピラーを有するマイクロ流路で巨核球を捕捉していた.捕捉された巨核球は流体力を加えることで断片化され血小板が産生されていた.しかしながら従来の方法では,サイズばらつきが大きい巨核球の捕捉が難しく,さらに巨核球がマイクロ流路内で目詰まりしていた.そのため,流路に沿って流速を一定に保つことが難しかった.昨年度は図1に示すような,サイズばらつきのある巨核球を捕捉し,均一な流体力を適用するために巨核球サイズ分布を反映した三次元マイクロ流路を有するマイクロ流体チップを提案し,オンチップ血小板産生システムの作製を行った.本年度は流体力と血小板産生数および血小板機能の関係の調査を行った.作製したシステムを用いて,ヒトiPS細胞由来の巨核球から血小板産生実験を行った.表1に収集されたPLPの数および,圧力条件下での1時間ごとの流量の平均と標準偏差を示す.この実験では,サンプルチャンバーの圧力を10,50,100,および200kPaに設定した.時間経過データを利用して,生成速度と,回収された培地中の血小板の濃度の観点から血小板産生の効率について議論した.時間コストの観点から,血小板を効果的に産生するための好ましいフロー条件が存在する可能性がある.さらには,培養コストの観点から,マイクロ流体チップで血小板を効果的に産生するには,10kPaの圧力条件が望ましいと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オンチップ血小板産生システムの開発を目的とし, 巨核球導入後の流体環境が一定になるような三次元マイクロ流体チップを作製することで,従来技術では困難であった血小板産生における流体力が及ぼす影響の評価を達成している.サイズばらつきの大きい巨核球を捕捉するために,三次元マイクロ流路を提案し,巨核球のサイズ分布から巨核球導入後の断面積が一定になるように三次元マイクロ流路の設計を行い,オンチップ血小板産生システムを構築した.作製したシステムを用いて血小板産生を行い,血小板産生効率や血小板機能の評価を行うことができた.その結果,執筆した論文が出版されるなどの業績も残している.
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今後の研究の推進方策 |
本年で得た知見より,産生された血小板の機能評価および,血小板産生の挙動を同時に評価する実験システムが求められる.これまでは蛍光発現している巨核球を用いて血小板産生の観察を行ってきた.しかしながら,蛍光観察はフレームレートが小さいため,詳細な観察はできず,臨床に使用される巨核球は蛍光発現していないため特性が違う可能性がある.そのため,蛍光発現していない巨核球を用いて,血小板の機能評価および,血小板産生の観察を行う必要がある.そこで,マイクロ流体チップを透過可能な材料で作製することを目指す.これまでのマイクロ流体チップはSiとガラスを用いて作製していた.しかしながら,Siで作製されているため,透過観察が難しかった.そこで,透過観察可能なマイクロ流体チップの作製を行い,血小板の機能評価および血小板産生の観察が可能な実験システムの構築を目指す.
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