研究課題
今年度は申請内容(2)に記載した,近赤外発光性ラジカルの創製に取り組んだ.また,ホウ素安定化ラジカルの発光特性に着目し,従来の発光性ラジカルとの違いを明らかとするため,励起状態計算等の量子化学計算に関しても取り組んだ.近赤外発光性ラジカル種の創製について,より長波長領域での電子遷移を狙い,分子内に電子ドナーであるアミノ基と,電子アクセプターであるホウ素を含むラジカル種を設計し,合成法の確立を目指した.鍵前駆体までの合成と精製方法の確立を達成した.さらに,ホウ素の導入およびラジカル化の検討も行い,標的ラジカルが近赤外領域で電子遷移を示すことも確認した.量子化学計算については,ホウ素安定化ラジカルと従来の発光性ラジカルに関して行った.実験結果として,従来の発光性ラジカルは溶媒の極性に依存し,蛍光の長波長シフトと量子収率の低下が見られることに対し,ホウ素安定化ラジカルは極性溶媒中でも高い量子収率を維持することが明らかとなっている.この理由について考察するため,基底状態と励起状態のそれぞれについて構造最適化を行い,natural orbitalの解析を行うことで,電子遷移の特徴および電子励起に際しての構造変化の大きさに関する調査を行った.計算の結果,従来のラジカルは,ドナー周辺に広がったHOMOからラジカル周辺に広がったSOMOへのHOMO-SOMO遷移であるのに対し,ホウ素安定化ラジカルは,ラジカル周辺に広がったSOMOからホウ素周辺に広がったLUMOへの遷移となり,SOMO-LUMO遷移を示す分子系であることが明らかとなった.また,結合性の観点から軌道を見ると,従来のラジカルは励起状態で高いキノイド性の発現が示唆された.一方で,ホウ素安定化ラジカルは,電子励起に際して構造変化は小さいことが確認され,このことが溶媒の極性への応答性が小さいことに寄与していると示唆された.
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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Chemical Science
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10.1039/D1SC06710A
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