研究課題/領域番号 |
19J23735
|
研究機関 | 公立はこだて未来大学 |
研究代表者 |
矢吹 渓悟 公立はこだて未来大学, システム情報科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
キーワード | 語用障害 / 自閉症スペクトラム障害 / 社会的(語用論的)コミュニケーション障害 / 定型発達者 / コミュニケーション支援 / 対話システム / 教育システム / 拡張現実(AR) |
研究実績の概要 |
本研究は,語用障害をかかえる人(主に自閉症スペクトラム障害および社会的(語用論的)コミュニケーション障害の方)と定型発達者(発達障害ではない人の総称)のコミュニケーションの破綻の問題を,定型発達者側から改善するために,語用障害をかかえる人を再現したシステムを開発する. 2020年度では,プロトタイプとして,二つの会話状況から語用障害をかかえる人との応対を体験し,語用障害をかかえる人との適切な対話方法を学習する対話システムを開発した.また,プロトタイプの評価実験として,学習者が本対話システムを通して,どの程度の学習効果が期待できるか検証し,また学習者にとって学習しやすい環境であるか評価を行い,問題点とより学習しやすい環境を整えるための改善策を調査した.なお,対話システムに登場する語用障害をかかえる人のペルソナ像として,自分からは話しかけないが,話しかけられれば応対することができる,重度~中程度の社会的(語用論的)コミュニケーション障害の小学校中学年程度の男の子を想定した. 実験は,語用障害をかかえる人とのコミュニケーション経験がないまたは乏しい定型発達者22名を対象に行い,事前事後テストと対話システム実行中の応対の記録から学習効果とその要因について検証し,アンケートを通して学習者から見た学習のしやすさと,対話システムをブラッシュアップさせる改善案について調査した. 実験の結果から,16名の被験者に対し学習効果が認められ,そのうち5名については本研究の目的を達成するに至るレベルの成果が認められた.ただし,残りの6名に関しては,逆に対話方法が悪化してしまった.考えられる要因として,会話の破綻が起きた際に,語用障害をかかえる人が行った明確化要求を通して,その発話に問題があったことを認識できるか否かによって,学習効果に大きな影響が生じる可能性があることがわかった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況の概要として,2019年度では対話システムの設計とシステム構築に必要な技術等の調査を行い,2020年度ではプロトタイプの開発と評価実験を実施し,問題点を精査し今後の改善策をまとめた. おおむね順調に研究が進展している理由として,特に2020年度のプロトタイプの評価実験の成果によるところが大きい.プロトタイプは,二つの会話状況から語用障害をかかえる人(重度~中程度の社会的(語用論的)コミュニケーション障害の方)との応対を体験し,語用障害をかかえる人との適切な対話方法を学習する対話システムであった.実験の結果から,半数以上の人に学習効果が見られたものの,一定数の人は逆に対話方法が悪化してしまうことと,その要因が会話の破綻が起きた際に,語用障害をかかえる人が行った明確化要求を通して,その発話に問題があったことを認識できるか否かによって,学習効果に大きな影響が生じる可能性があることがわかった.この成果を踏まえて,プロトタイプのブラッシュアップの方針が決まったことが,おおむね順調に研究が進展している理由である.
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として,まずプロトタイプの実験結果を踏まえて,追加および修正する必要のある機能の実装を行い,対話システムをブラッシュアップする. プロトタイプの結果から,語用障害をかかえる人との応対中に,会話の破綻が起き,語用障害をかかえる人が明確化要求を行った際に,語用障害をかかえる人が困惑または混乱している理由を提示し,対話方法を改善するためのアドバイスを行う機能を追加し,学習を支援する. また,アンケートの結果から,学習者の意見や要望を踏まえ,対話システムを通して学習者が体験した事柄を対話システム終了時にまとめてみることができる機能や,語用障害をかかえる人が学習者の発話をどのように捉えて解釈したのかを追うことができるように,語用障害をかかえる人の立場から会話を追体験することができる機能も追加する. 対話システムをブラッシュアップしたのち,評価実験を通して有用性の検証を行う.評価の観点として,第一に語用障害をかかえる人が適切に再現されているか評価を行う.これは,専門家および研究協力施設の放課後等デイサービスの熟練した支援者を対象に,語用障害をかかえる人役の3Dキャラクターの応対や振る舞いが,実際の障がい者と比べてどの程度の再現されているか評価を行う.第二に,語用障害をかかえる人との適切な対話方法を学習するシステムとして有用性があるか評価を行う.これは,語用障害をかかえる人とのコミュニケーション経験がないまたは乏しい定型発達者を対象に,事前事後テストを用いて学習効果の評価を,アンケートを用いて学習のモチベーションや対話システムに対する印象の評価を行う.そして,これらの評価実験の結果を取りまとめ学会発表を行う.
|