研究課題/領域番号 |
19J23744
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
三浦 大輔 山形大学, 大学院理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 核偏極 / 中性子回折法 / スピンコントラスト法 |
研究実績の概要 |
アミノ酸の1 種であるグルタミン酸を偏極ソースとなるTEMPO を含んだ重水素化ポリスチレンに含浸させグルタミン酸中の水素核が偏極した試料を用意した。グルタミン酸にTEMPO からの偏極が効率よく伝搬させるために、乳鉢で粒径数マイクロメートルにすりつぶしている。ポリスチレンを重水素化することで中性子散乱測定時のポリスチレンからの散乱強度を抑制し、目標とするグルタミン酸からの散乱を測定しやすいようにした。グルタミン酸の水素核偏極度は16% に到達した試料で偏極中性子回折測定を行った。偏極中性子のスピンの向きを切り替えることで、水素核スピンと平行のとき、反平行のときの2種類の偏極試料からの中性子散乱スペクトルを取得した。また、水素核偏極度を0% にした無偏極時の散乱も取得した。得られた散乱信号を組み合わせて解析することで、水素核偏極度に応じて変化する散乱成分だけを抽出した。従来の回折法は結晶中のすべての原子からの散乱の総和であり、どの原子からの 散乱かを区別することができない。しかしながら本手法は、水素核偏極度に伴い変化した散乱成分を抽出することに成功した、すなわち、水素が関与する散乱だけを抽出することに成功した。本成果は従来法では得ることのできない結晶中での水素核の凝集や分散状態、水素核がどの原子核と強く結びついているかなどの、水素に関する詳細な構造情報を得ることができる。水素貯蔵材料や生体内物質などの機能には水素が大きく関与している。本手法により、結晶中での水素の散乱を選択的に抽出することで、これらの材料の開発や、機能メカニズムを構造解析の観点から明らかにできると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の昨年度の水素核偏極度に伴う偏極中性子散乱強度の変化から水素を中心とした構造情報を引き出すことを目的に行った。予定通り水素核偏極度に伴い変化した散乱強度を解析することで、結晶中の水素に関する詳細な構造情報を引き出すことに成功し、ここまで予定通りに進行した。 まずは原理実証で取り組んだ本手法であるが、現在は本手法によるセルロースナノファイバーのゲル化メカニズムの解明に取り組んでいる。 セルロースナノファイバーの水素核偏極標的試料の作製に着手しており、スピンコントラスト法で必要となる偏極度を得ている. 構造解析を望む実試料にまで本手法の展開できてたことは、当初の計画以上の進展である。
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今後の研究の推進方策 |
本手法によりセルロースナノファイバーのゲル化メカニズムを解明する。 セルロースナノファイバーは、クエン酸などの有機酸を加えることでナノファイバー同士が有機酸により架橋され、強い圧縮性を備えたゲルとなる。 この架橋には水素が関与していると考えられ、本手法によりセルロースナノファイバーのどの場所が、どのように有機酸と水素を介して結合しているのかを解明する。
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