研究課題
CADASILは、血管壁細胞の変性などの血管病変と大脳白質障害を特徴とする優性遺伝性の若年性血管性認知症である。20代頃から偏頭痛や欝等の症状が現れ始め、一過性脳虚血発作や脳梗塞を繰り返して50~60代で認知症、死に至る。原因遺伝子が壁細胞(血管平滑筋細胞・ペリサイト)特異的な細胞膜受容体NOTCH3に特定されて以来(Joutel A, 1996)、多くの研究がなされてきたが、未だに血管の形態・機能異常に至るメカニズムは不明であり、有効な治療法が全く存在しない。申請者らは、iPS細胞から壁細胞を分化誘導する手法を用いて、CADASILの病態メカニズムの解明を進めてきたが、その中でいくつかの治療ターゲット候補分子が見いだされた。本研究では、申請者が確立したiPSMCのin vitro病態モデルを用いて、各種阻害剤や中和抗体、核酸医薬品などのスクリーニングを行い、CADASILの新規治療薬の候補を絞り込むことを目的とした。平成31年度は、これまでの壁細胞を用いた検討結果の正しさの検証も兼ねて、最近脳小血管病の病態形成にかかわるのではないかと注目され始めているオリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC) へiPS細胞を分化誘導した。当初は、分化誘導されたOPCの細胞機能などをCADASILとコントロールで比較する予定であったが、CADASILにおいてOPCの分化自体が障害され、十分量のOPCを得られないことが分かった。壁細胞の分化にはPDGFRβが関わっているが、OPCの分化はPDGFRαシグナルによる。壁細胞による検討ではPDGFRβの過剰シグナルが示唆されていたことを考慮すると、PDGFRβとPDGFRαのシグナルのバランスが崩れることにより、OPCへの分化が抑制された可能性が考えられる。そこで、PDGFRβの阻害剤を投与したところ、CADASIL iPS細胞のOPCへの分化が促進された。現在、分化誘導時の投与タイミングおよび至適濃度の検討と、CADASILのほかの患者由来のiPS細胞での再現性実験を行っている。
2: おおむね順調に進展している
施設の移転に伴い、マウスの繁殖が一時中断されたため、主にiPS細胞での実験に切り替えた。iPS細胞を壁細胞およびOPCに分化誘導し、治療薬候補のスクリーニングを行ったところ、1つ有望な薬剤を同定することができた。
同定された候補薬剤について、in vitroで濃度や投与時期、投与期間の検討を行う。また、再現性の確認をすすめて、効果が見込める場合は、トランスジェニックマウスでの投与実験を行うための予備実験を始める予定である。
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Molecular brain
巻: 13 ページ: 38
10.1186/s13041-020-00573-w