近年の発生生物学では、細胞が生み出す力(細胞の分裂・変形・並び替えなど)によって組織が変形して適切な体の形がつくられる仕組みが詳細に研究されてきた。だが、生物の体を構成する材料は細胞だけではない。多細胞生物の体の形を規定する組織~脊椎動物の内骨格や昆虫の外骨格など~は、主に細胞外マトリックス(ECM)から成る。これまで私はショウジョウバエの発生過程において、外骨格(クチクラ)自体の変形によって体の形がつくりだされる機構を研究してきた。そして、クチクラタンパク質Cuticular protein 11A (Cpr11A)およびTubby (Tb)が幼虫のクチクラの表面付近に層構造をつくりだすこと、そしてこの層構造がクチクラの胴囲方向の伸長を制限することによって幼虫の体型を細長くさせる働きを持つことを示してきた。本年度はこれらのタンパク質がクチクラ中で層構造をつくりだす分子機構の解明を目指して、各タンパク質に部分的な変異を導入した場合に層構造形成にどのような影響がもたらされるかを解析した。その結果、各タンパク質の中で特定の領域に変異を導入した場合に正常な層構造を形成できなくなることが分かった。今後は、個々の領域の役割(分子構造への寄与や、他の分子との相互作用など)の解析によって、各タンパク質による層構造形成機構を明らかにすることができると期待される。
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