本年度は新型コロナウィルスの世界的な流行の影響により、調査地であるタンザニア連合共和国・マハレ山塊国立公園への渡航ができなかった。そのため、サンプル輸送の国内外の手続きを前年度に完遂していたにもかかわらず、サンプルを持ち帰るには至らなかった。つまり、ラボワークは期待されていたほどには進展しなかった。 一方、今年度は、これまでのフィールドワークによって得られたデータを用いて、渡航予定だった期間に、京都大学アフリカ地域研究資料センター 花村俊吉 研究員、酪農学園大学獣医学群 郡山尚紀 准教授、北海道大学大学院地球環境科学研究院 早川卓志 助教、東邦大学理学部 井上英治 准教授らとともに論文を執筆した。松本と共著者らは、出自集団に留まって出産したメス(以下、居残りメス)2頭の観察をきっかけに、過去30年分の人口統計学的データと合わせて居残りメスが出自集団で出産する要因を検討した結果、一般に父系社会とされるチンパンジー集団において居残りメスが例外ではないことを明らかにした。野生チンパンジーのメスは移入した先の集団の食物レパートリーを社会的に学習することが知られているが、今後、母親が居残りメスか移入メスかによって離乳前後のチンパンジーの食性に差があるかどうかを検討することで、食物レパートリーの獲得過程をより多角的に解明することが可能になる。 これまでの研究成果のまとめとして、日本赤ちゃん学会、日本霊長類学会大会、日本生態学会において研究発表を行った。
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