乳がんは、女性のがんの中でも罹患率がトップであり、その罹患率や死亡者数は増加の一途をたどっている。乳がん患者においても世界で抗PD-1/PD-L1抗体などの免疫チェックポイント阻害剤を用いた臨床治験が進められているが、他のがんと同様に奏効率は20%前後と高くはない。これに対し、他の免疫療法や化学療法との併用が「場当たり的に」考案・検討されているものの、強烈な副作用を伴う例が少なくなく、劇的な改善を示した例は未だ知られていない。 われわれはこれまでの解析から、乳がん細胞E0771を移植し、抗PD-1抗体投与による治療実験を行うと、野生型マウスと比較して明らかに予後が良いノックアウトマウスを発見した。このノックアウトマウスでは野生型と比較して原発腫瘍の増殖抑制効果はほとんどないが、著明なな肺転移抑制効果が見られた。さらに、本遺伝子の抗体を作製しマウスに投与したところ、ノックアウトマウスの結果と同様に、野生型マウスと比較して予後が良くなることがわかった。THP細胞を用いたカルシウムイメージングを用いて本遺伝子を阻害する薬剤のスクリーニングをおこなった結果、様々なIC50を持つ低分子化合物が得られた。しかし、この中で最もIC50の低い化合物を投与した結果、標的タンパク質の阻害効果は見られたものの、マウスの予後は改善しなかった。このことから、抗体による阻害特異的な抑制機構が必要であると考えられた。
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