研究課題/領域番号 |
19J40075
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
宮崎 珠子 岩手大学, 農学部応用生物科学科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 黄体形成ホルモン(LH) / 尿 / 牛 / 猫 / 繁殖技術 |
研究実績の概要 |
本研究は、乳牛の繁殖技術向上を念頭に、牛、マウス、猫を用いて、排卵前に黄体形成ホルモン(LH)が血中で一過性に上昇(サージ)した後、尿に排泄されるか、LHの尿中動態と排泄機構の解明を目指す。ヒトでは妊娠しやすい時期を特定するために、排卵を予知する検査として、尿中LHを検出するキットが市販されている。排卵に先立って、血中LHサージが起こることは多くの哺乳動物で報告されているが、ヒト以外の哺乳動物の尿中にLHが排泄されるかは未解明だった。 二年目までに、LHの放出を促す性腺刺激ホルモン放出ホルモン製剤(GnRH)投与後0~48時間まで血液と尿を採取し、LH濃度を市販のELISAキットを用いて測定した。牛において血中LHサージの約3時間後に尿中でもLHが増加することが明らかになった。また交尾排卵動物であるネコでも、血中LH検出後に、尿中LHが検出された。しかし血中と尿中LHが同じ濃度で検出されるヒトに比べると、牛とネコの尿中LH濃度は血中LH濃度に比べ著しく低く、さらに個体差が大きいことがわかった。 三年目はマウスを加えて、血中LHの増加に伴い尿中LHが増加するか確認する。具体的には、LHが腎臓の尿細管で再吸収されるメカニズムについて詳細を調べるため、近位尿細管に存在するメガリンに注目して、LHを結合するかしないかを牛、猫、マウスで確認する。またマウスを用いて、蛍光標識したLHを腹腔内投与して、血中LHサージ様の処置を施し、尿細管でLHが再吸収されるか確認する。また牛の乳汁中にLHが排泄されるか、尿中LHを検出した時と同様に、人為的に発情周期を同期化し、GnRH投与前後の血中LHの変動を確認しながら、乳汁中にLHが検出されるか検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
一年目は、本研究の主目的である牛黄体形成ホルモン(LH)が発情期の尿中に検出されるか生化学的なアプローチで取り組んだ。具体的には、ペプチドホルモンであるLHを検出するために、電気泳動法によるタンパク質の分画と、抗体を用いて酵素結合免疫法による検出法の開発に取り組んだ。しかし尿中LH濃度が非常に低く、尿の濃縮と透析といった前処理が必要であることが分かった。またこの手法では、タンパク質を豊富に含む血中LHを検出することは難しかった。このため最初の計画では、独自の検出法を確立したうえで、研究を進めていく予定だったが、市販のLHのELISAキットを用いることに変更した。 二年目は、黒毛和種牛を6頭用いて、性腺刺激ホルモン放出ホルモン製剤(GnRH)投与後0~48時間まで血液と尿を採取し、LH濃度を市販のELISAキットを用いて測定した。牛において血中LHサージの約3時間後に尿中でもLHが増加することが明らかになった。これらの成果を学会や論文で発表した。また交尾排卵動物であるネコでも、市販のLHのELISAキットを用いて、血中LH検出後に、尿中LHが検出された。しかし血中と尿中LHが同じ濃度で検出されるヒトに比べると、牛とネコの尿中LH濃度は血中LH濃度に比べ著しく低く、さらに個体差が大きいことがわかった。すなわち猫で計画していた血中LHの尿中排泄割合を求める研究を行うには、多数の猫で行う可能性が出てきてしまい、断念せざるを得ない状況になった。 三年目には、一年目と二年目に実験することを計画していて、実施できていない実験を進めていく予定である。最終年度となる今年度に、計画していたすべての実験を行うことが難しい状況が予想されるため、「やや遅れている」という判断になった。
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今後の研究の推進方策 |
第一に腎臓におけるLH動態を明らかにするために、LHが腎臓の尿細管で再吸収されるか、再吸収を免れるか明らかにする。腎臓の近位尿細管では、メガリンという膜タンパク質が再吸収に関与している。メガリンは近位尿細管上皮細胞膜の管腔側に高発現しており、腎臓の糸球体を通過した血清タンパク質を結合し、エンドサイトーシスで細胞内に再吸収する。よって糸球体を通過したLHが尿に排泄されるためには、メガリンによる再吸収を免れるか、メガリンに再吸収される以上のLHが糸球体を通過してくる必要がある。そこで牛、猫、マウスの腎臓からメガリンを含む膜タンパク質を抽出し、メガリン抗体とLH抗体で二重染色を行い、メガリンにLH結合能があるか調べる。 第二に尿細管でLHが再吸収されるかは、蛍光標識したLHを腹腔内投与して血中LHサージ様の処置を施したマウスを使い検証する。標識LH投与0~6時間後までのマウス腎臓組織標本を作る。そして尿細管上皮細胞内で蛍光(LH吸収像)が検出されるか調べる。蛍光の検出の有無により尿細管がLHを再吸収しているかいないか分かる。次に標識LHの投与量を変え、投与後12時間まで採尿し、尿タンパク質をSDS-PAGEで分離後、蛍光イメージアナライザーで標識LH排泄量を定量する。血中LHの何割が尿に排泄されるか概算し、血中LH量と尿中LH排泄量が相関するか調べる。 第三に牛の乳汁中LHについて調べる。ホルモン処置で発情周期を同期化した乳牛を用いて、LHの放出を促す性腺刺激ホルモン放出ホルモン製剤(GnRH)投与後0~8時間まで血液とGnRH投与前と投与後3回までに搾乳した乳汁を採材し、LH濃度を測定する。LHサージに伴う排卵は、ホルモン処置前と48時間後に卵巣の超音波検査を行い確認する。血中LHサージ後、乳汁中にLHが排泄される時期が分かれば、乳汁LH測定による排卵予知が可能か検証できる。
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