研究課題/領域番号 |
19J40191
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤原 摩耶子 京都大学, 野生動物研究センター, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 卵子 / 卵巣 / 凍結保存 / 野生動物 |
研究実績の概要 |
希少な野生動物のメスの遺伝資源を保全する生殖介助技術の構築を目指し、モデルとしてイヌとネコの卵巣を用いて、原始卵胞の利用を想定した卵巣皮質の凍結保存法を見出すとともに、原始卵胞から二次卵胞までの体外発育条件の検討を行った。さらに、より発育した卵子の凍結保存研究に取り組むとともに、ニワトリを用いた鳥類の卵巣組織保存の研究にも取り組んだ。ニワトリを用いた研究では、卵巣輸送時の保存温度が卵子の酸化ストレスによる死滅に影響することを示し、保存後の卵巣の凍結保存条件についての研究を進めている。 さらに、国内の動物園・水族館のご協力を得て、飼育下で死亡した野生動物の卵巣を提供いただき、卵巣組織・卵子を凍結保存する『卵巣バンク』の取り組みを推進した。昨年度は合計で11動物園から18件、17種の卵巣を受け入れた。さらに、環境省と連携し、飼育下と野生下で死亡したツシマヤマネコについても卵巣を受け入れ、卵子の保存に取り組んでおり、昨年度は4件提供を受けた。これまでに卵巣バンクでの受け入れ件数は合計で40種、72個体にのぼる。それぞれ卵巣組織の凍結保存、組織解析のための組織固定を行うとともに、分子学的解析のためのRNA保存、タンパク質保存、DNA保存も実施している。 また、スミソニアン保全生物学研究所との国際共同研究の結果、発育の進んだ卵子の凍結保存・体外成熟率を向上させることに成功し、成果を共同筆頭著者として国際学術誌に発表した。さらに、その手法を用いて野生動物の卵巣を受け入れた際にも応用することで、卵子を発育段階に応じて適切な手法で凍結できるようになった。 以上の成果は国際学会と国内学会でも発表し、学会の委員としてオンライン国際シンポジウムを企画、アウトリーチ活動やメディア報道を通した社会への情報発信など、積極的に研究活動を進めている
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでのイヌとネコの卵巣組織の凍結保存研究の成果から、より積極的に野生動物の卵巣を動物園から受け入れることができた。昨年度は新たな水族館からも協力を得られ、また、環境省と連携した国内希少種であるツシマヤマネコの保全のための卵巣組織保存も継続して実施するなど、卵巣組織バンクの構築を促進することができた。 また、米国スミソニアン保全生物学研究所に滞在し国際共同研究を実施することで、研究範囲をより成熟の進んだ卵子まで進めることが可能となり、国際誌で成果を発表するとともに、習得した新たな卵子凍結技術は野生動物の卵巣バンクへ応用を始めている。 さらに鳥類の卵巣保存に関する研究は、当初の研究計画にはなかったが、研究の発展によって実現した新たなプロジェクトである。哺乳類の卵巣組織保存の研究が順調に進展していることから、国内でより絶滅危惧種の多い鳥類の卵巣保存にも取り組むように共同研究者から助言を受けて始まったもので、すでに野生の鳥類への応用に向けた話し合いも始めており、研究が進展した成果とも言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後もモデル動物(イヌ、ネコ、ニワトリ)を用いた卵巣組織の体外培養、凍結保存の研究を進めるとともに、野生動物への応用も進めることで、幅広い動物種に応用可能な生殖介助技術の開発を目指す。 野生動物の卵子を用いた生殖介助技術の確立が困難である原因として、卵胞形成過程等の機構に種差が大きいことが挙げられる。本年度は引き続きモデル動物(イヌ・ネコ)を用いて、卵胞発育に関わる様々な遺伝子を用いた遺伝子解析、組織学的解析を実施し、卵子・卵胞における種差の解明を目的とした卵子の生物学的特性の評価系を確定する。 さらに、動物種に応じた卵巣組織の凍結保存法の最適化を行うため、凍結前後の野生動物種の卵巣組織について、生存性・発育能を組織学的観察、及び分子学的解析によって評価する。 原始卵胞の発育誘導には、長期間組織内に十分な養分と酸素を供給し、種特有の卵胞発育過程を模倣する新たな培養系の構築が必要である。原始卵胞の発育を促す体外培養法の確立を目指し、本年度はモデル動物を用いて卵巣組織中の各発育段階の卵胞及び周辺細胞の分子生物学的特性について解析し、野生動物における評価系を確定する。 また、ニワトリの凍結後の卵巣についても解析を進め、異なる凍結条件が及ぼす未成熟卵子への影響を調べることで、鳥類の卵巣の凍結保存法の確立を目指す。 野生動物への応用研究も推進する。今後、凍結後の野生動物の卵巣について、組織学的・分子生物学的な解析を進め、必要に応じて種ごとに凍結条件を修正する。また、様々な動物種の卵巣を蓄積する利点を生かした、卵巣凍結における種差についての解析も進めていく。日本動物園水族館協会との連携および環境省との連携によって、今後より野生動物の卵巣組織バンクを拡充させる計画であり、海外との連携も強化する。
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備考 |
読売新聞朝刊(2020年4月3日)、読売新聞夕刊(2020年6月4日、10月24日)、毎日新聞夕刊(2020年4月4日)にて研究紹介記事が掲載
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