本研究の目的は、国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)で新たに採用された複雑性PTSDに対して、STAIR Narrative Therapy(STAIR/NSTより名称変更)の日本における実施可能性、安全性、潜在的有効性をオープンラベル前後比較試験によって検討することであった。18歳以前に身体的/性的虐待を経験し、ICD-11の基準で複雑性PTSDと診断された成人女性患者15名が研究に登録された。主要な評価項目は、国際トラウマ面接(ITI)で評価された治療後および治療終了3か月後の複雑性PTSD診断と重症度であった。 本研究の研究成果として、2020年度までにフォローアップを終えた10例についてまとめた英語論文がEuropean Journal of Psychotraumatology誌に掲載された。この研究成果については、所属機関にてプレスリリースを行うとともに、日本精神神経学会学術総会のシンポジウムにて発表を行った。論文の主要な結果は以下の通りである。治療を完了した7名のうち、6名は治療後に複雑性PTSDの診断基準を満たさなくなり、7名全員が治療終了3か月後に診断基準を満たさなくなった。また複雑性PTSDの重症度得点は、治療前と比べて治療後および治療終了3か月後に有意な改善が認められ、その効果量も大きかった。同様に、うつ症状をはじめとした様々な評価項目においても有意な改善が認められた。治療を途中で終えた3名(1名はCOVID-19の影響)のうち、中間評価を受けた2名にも複雑性PTSD症状の改善が認められた。また治療期間中に重篤な有害事象は認められなかった。本研究は、この治療が日本の臨床現場においても安全に実施可能であり、複雑性PTSDに対して効果が期待できることを確認した点で、治療を前進させる重要な成果であると考えられる。
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