研究課題/領域番号 |
19J40208
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研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
川森 愛 統計数理研究所, データ科学研究系, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | ニワトリ雛 / 採餌行動 / 最適採餌 / 最適餌パッチ離脱モデル / 状態空間モデル / 認知計算モデル |
研究実績の概要 |
[単位時間あたり移動コストの検証] 昨年度はデータの観測モデルを作成し,プロセスモデルとして最適採餌理論に基づくモデルと,その他の認知変数を使用するモデルを検証した.その際,最適採餌理論に含まれていながら考慮できていなかった変数として,移動によるエネルギーコストがあった.これは実測するのが困難であるが,移動コストを考慮した時,最適滞在時間はより長くなる.つまり,実際の滞在時間が理論予測よりも長いように思えた問題は,移動コストを考慮することにより説明可能かもしれない.移動にかかる単位時間あたり消費エネルギーを表す単一パラメータ(Et)をモデルに加えて検証したところ,モデル予測の中央値は多少改善したが,実験条件依存の分散傾向を説明することはできなかった.このことから,最適採餌理論の枠組みではいかなる工夫を施してもデータを説明できないこと,それとは異なるプロセスモデルを考慮するのが現実により近いということが結論づけられた.
[作成した確率モデルの評価] 本研究で使用したデータには,実験条件依存で分散が変化する特徴的な傾向が見られた.このような傾向は最適採餌理論からは予想できないし,実際理論的最適解を利用したモデルで再現ができなかった.一方,認知変数の組み合わせを様々に変え,一般的に収益/時間で記述できる各種利益率の効果を検証したところ,この分散傾向に近いものを再現することができた.モデル予測の分散とデータの分散の「近さ」を評価するため,分散比であるF統計量を用いた.データと分散が等しいという帰無仮説のもとでのF分布の確率密度を評価指標とし,実験3条件それぞれについての確率密度の積が高いものを良いモデルとして評価した.実験に使用した全個体について,最適採餌モデルよりも報告者の考案したモデルが優れていると判断できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では,1年目に単独採餌行動を解析するための基本モデルを作成し,2年目は採餌に社会的状況が追加された時のモデル変化を検証する予定であった.基本モデルの改良を行なっていたことから本年の計画には遅れが生じたが,十分な予測精度を持つモデルが出来上がった.今年度予定していた複数個体による社会採餌行動は,現在解析中である.単独採餌の基本モデルの予測精度が良いことから,社会採餌に応用した場合も最低限の改変で様々な検証に使用できるものと期待する.このまま社会採餌に関して研究を進め,3年目の目標である集合知仮説の検証を行う.
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの認知プロセスの探索は,行動データに対し当てはまりのよいことを基準として進めてきた.一方で,実際にそれを実装した動物が採餌において効率が良いか悪いか分からない.例え行動データによく合っていたとしても,採餌効率の悪いプロセスが動物により採用されているとは考えにくい.あるいは本当にそうならば,動物が採餌に関して重要視している,効率以外の要因を見落としていることになる.その要因の候補として社会性が考えられる.例えば,社会採餌の状況では他者が採餌中の場所には餌も存在するという,強烈な目印になりうることから,単独採餌での効率計算とは全く異なる計算が必要かもしれない.これらの議論を深めるため,まずはコンピュータシミュレーションにより候補プロセスを実装した動物の採餌成績を比較する.
また,単独採餌をモデル化した昨年度の結果と比較しながら,同様の実験を複数個体の社会採餌で行ったデータを解析し,単独時とパラメータや適合する認知プロセスに違いが現れるかを検討する.パラメータ等に違いが現れた場合,競争の効果として採餌効率にどのような影響が現れるか検討する.つまり,競争のためにより採餌に集中して効率が上がるのか,他個体の存在が邪魔をして採餌効率が下がるのか検証する.
昨今の社会情勢から,これまでの動物種と手法を大きく変えた実験を実施するような野心的な計画は実行が難しい.代替手段として,オンライン上でできる実験調査を検討し,ヒトを対象とした調査を計画する.
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