本研究は動物行動を統計モデルから理解することを目的として研究を進めてきた.動物行動は内部で行われたはずの計算過程の最終結果の発露であり,その観測できない内部過程を明示的に仮定し検証できる統計モデルは有用なツールとなる.本研究では行動の発現には単純な確率構造だけを仮定し,過程モデルに焦点をあてることにより動物が持つ計算ルールの検証を可能とした. 上記の統計モデルをヒヨコの採餌行動実験に当てはめた結果,個体ごとのパラメタライズの違い,内部における計算ルールモデルの違いがあることがわかり,個体によって行動戦略に違いがある可能性が示唆された.そこで,モデルごとに実現されうる採餌効率をシミュレーションにより計算したところ,ヒヨコから最も多く選ばれているモデルが最も効率の良い採餌となっていた.これは理論的な予測とは異なるのだが,データから最尤推定されたパラメータを使用したことから,その影響を受けていると考えられる.これらの結果を加味し,明確な結論はいまだ出せないものの,ヒヨコは少しでも採餌効率を高めるような行動を選択しているということが推測できる. 本研究は,5月ポジティブ感情分科会,10月法政大学研究集会および成蹊大学シンポジウム, 1月の統計数理研究所研究集会において発表し,統計学,生態学の専門家を中心として広く議論を行なった.また,本研究結果を論文発表すべく執筆を進めた.発表には至っていないが,近く学術誌に投稿予定である.
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