研究実績の概要 |
本研究では、形態的特徴と化学的特徴を合わせることで、先カンブリア時代微化石の起源生物に制約を与える新しい指標を得ることを目指す。そのために、走査型透過X線顕微鏡-軟X線吸収端近傍構造(STXM-XANES)分光分析を用いた構造解析を行い、微化石を構成する炭質物の化学結合状態をナノスケールで明らかにすることを計画した。 前年度に引き続き、球状微化石を含む形態的に異なる3種類の微化石に対して、高エネルギー加速器研究機構でSTXM観察を行い、C-XANESスペクトルを得た。用いた3種類の微化石は赤外分光分析の結果が比較的類似する。STXM観察の結果、動物胚と解釈される2種類の球状微化石(Megasphaera, Megaclonophycus)は異なるC-XANESスペクトルを示した。MegasphaeraのC-XANESスペクトルは形態的に藻類と解釈される化石に類似した。それぞれの微化石の起源生物を解釈するには現生の生物やその続成変化について更に検討する必要があるが、本研究の結果は、これまでに得た顕微赤外分光分析の結果が類似する試料であっても、STXM観察を行うことで、更に化学的な分類が可能であることを示す。 また、本研究で主に使用してきた顕微赤外分光法の空間分解能を向上させる手法として、光熱変換赤外分光法(O-PTIR)に着目した。本研究で着目する脂質の吸収帯を含む波数範囲(2800-3000cm-1)において、原核生物の2大ドメインである細菌・古細菌1細胞から赤外スペクトルを得ること及びドメイン識別が可能か検証した。10種類の細菌・古細菌の測定を行った結果、O-PTIR法は細菌のみならず古細菌でも1細胞から赤外スペクトルを得ることが可能であり、着目する指標についても従来の顕微赤外分光法で得られるそれと概ね同等であることが分かった。
|