研究課題/領域番号 |
19J40249
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
水谷 紗弥佳 東京工業大学, 生命理工学院, 特別研究員(RPD)
|
研究期間 (年度) |
2019-07-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 腸内細菌 / メタゲノム / メタボローム / 大腸がん |
研究実績の概要 |
近年、大腸がんへの腸内細菌の関与について多くの研究報告がなされている。一般に、腸内環境の群集構造は個人差があることが知られているが、これまでの報告では、大腸がんへの関与が個人が持つ腸内環境の多様性にどのように依するのかという問題は未着手であった。本研究では、発がんに至る腸内環境全体の変動がもともとの腸内環境に依存しているという仮説を立て、これまで蓄積してきた腸内環境の大規模コホートデータを入力情報として、大腸がんに至る腸内環境の状態遷移モデルを腸内環境のタイプ別に構築することを目的としている。 東京工業大学の山田研究室では、国立がんセンター・中央病院 内視鏡科で大腸内視鏡検査を受けた患者さんから収集した糞便試料や生活習慣に関するアンケート調査を元に、メタゲノムやメタボロームデータを大規模に蓄積している。患者さんは同時に、大腸内視鏡検査結果に基づき、所見なし、ポリープを有するもの、大腸がんのステージごとなどに臨床分類されている。 2019年度は、腸内環境状態遷移モデルの初期状態として、個人が持つもともとの腸内環境を明らかにすることを目的として研究を進めた。以前から、個人が持つ腸内細菌の群集構造にはある程度のタイプがあることが知られていた。そこで、上記のメタゲノムデータを用い、腸内細菌の系統的・機能的両側面から、各個人の腸内細菌群集や代謝機能のタイプを明らかにすることを目標とした。その結果、系統的側面では、散発性大腸がんの患者さんでは、どの進行段階でも、腸内細菌群集のタイプ分類に健常者との顕著な違いは見られなかった。 一方、生活習慣に関するアンケート調査に基づき食事から得られる栄養摂取量の違いについて調べたところ、ポリープを有する患者さんや進行がんの患者さんでは、食物繊維やカルシウムの摂取量が健常者と比較して低いことがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の研究計画では、腸内細菌の系統的・機能的両側面に焦点を当て、腸内細菌群集や代謝機能のタイプを明らかにすることを目標とした。系統的側面ではある程度の進展があったが、機能的側面では新たな知見を得るまでには至らなかった。特に、機能的側面での腸内環境のタイプ分けは既存の手法では詳細な情報を得ることが難しいと思われるため、来年度は最適な解析手法の探索も考慮して解析を進めることが必要である。また、受入れ研究室の主要なプロジェクトである大腸がんと腸内環境の関連性の研究において、2019年度はこれまで蓄積してきた知見を総括した原著論文や総説論文を国内外の科学誌に掲載した他、競争率の高い国際学会で発表することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は、腸内環境状態遷移モデルの初期状態として、腸内細菌の機能的側面に注目し研究を進める。機能的側面での腸内環境のタイプ分けは、既存の手法を用いて詳細な情報を得ることは難しいと思われるため、2020年度は最適な解析手法の探索も考慮して解析を進める。細菌の代謝機能のうち、これまでの研究で大腸がんとの関連が確認されたアミノ酸代謝に注目し、その個人多様性を解析する。準備段階として、公共のデータベースや受入研究室で開発中のEnteroPathwayデータベースを用い、アミノ酸合成や分解を担う腸内細菌叢を明らかにする。次に、細菌遺伝子の変動がどのように発がんに寄与しているかを腸内環境のタイプごとに明らかにすることを目的とし、アミノ酸代謝を担う菌の競合関係について数理モデルを構築しシミュレーションにより妥当性を検証する。2020年度目標として、個人の腸内環境の初期条件を考慮した腸内環境状態遷移モデルを構築し、がんに至る腸内環境の変化を明らかにする。 2022年度以降は、腸内環境を特徴付けるその他のファクターとして、第一に患者さんの食生活習慣、第二に腸内細菌の栄養共生に注目して研究を推進する。食生活習慣については、疫学・統計学的手法を用い、食事や生活習慣を腸内環境のタイプ別に健常者とがん患者で比較検証する。食事や生活習慣を腸内環境状態遷移モデルと関連づけることで、食生活がどのように腸内環境を変え、がんの発症を招くのか検証する。腸内細菌の栄養共生については、既存の研究で公開されているヒト便検体由来の腸内時系列メタトランスクリプトームデータを用い、栄養共生が腸内環境状態の遷移にどのように寄与しているのか解析する。準備として、限定的ではあるがこれまでに共棲培養実験などで得られている知見について文献収集をする。 最後に、研究成果を国内外の学会で発表する他、国際科学誌への投稿を目指す。
|