研究課題/領域番号 |
19J40268
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
中島 進吾 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第三部, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 脂肪酸 / 高脂肪食 / 脂肪滴 / アストロサイト / ニューロン / 不安行動 |
研究実績の概要 |
過剰な脂質の摂取は肥満や糖尿病だけでなく、うつ病やアルツハイマー病など脳の病気とも関わることが明らかになってきている。摂取する脂質のクオリティの違いが不安行動や認知機能に及ぼす影響が明らかになりつつあるが、どういった細胞が関与するのか、脂質がどう影響するのかは未解明な点が多い。 初年度は、本研究の分子レベルでの基盤となる中枢神経系への脂肪酸の影響について、初代培養細胞および肥満モデル動物を用いて探索した。 初代培養アストロサイトにおける脂肪滴蓄積において、オレイン酸曝露により最も脂肪滴が蓄積した。ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT1)阻害剤により、オレイン酸による脂肪滴蓄積消失とともに細胞数が減少した事から、アストロサイトは外部の脂肪酸を脂肪滴として蓄積させることで、脂質毒性を回避していることが予想された。 脂肪酸の一つであるラウリン酸がアストロサイトにおけるサイトカイン、神経栄養因子の遺伝子発現を増加させた。ニューロンとアストロサイトの共培養下では、ラウリン酸によるシナプスタンパク質増加作用が見られ、ラウリン酸はアストロサイトを介してニューロンの成熟を促進している可能性が考えられた。 高スクロース高飽和脂肪酸食(高ラード食)および高スクロース高不飽和脂肪酸食(高オリーブオイル食)を摂取したラットでは、同程度の体重・脂肪重量増加が観察されたが、不安行動は高ラード食でのみ観察された。多価不飽和脂肪酸を含有したリゾホスファチジルコリンレベルと不安行動に強い正の相関が見られた。リゾホスファチジルコリンは多価不飽和脂肪酸を脳へ輸送する形態として知られており、高ラード食によるこれらの脂質減少によって脳内における高不飽和脂肪酸が減少していることが予想された。 上述のように、初年度は脂肪酸の違いが”細胞レベルでの応答や動物における不安行動”に及ぼす影響を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪酸がグリア細胞の一つであるアストロサイトの脂肪滴蓄積やサイトカイン産生などに関与すること、および飽和脂肪酸の過剰摂取が肥満に関わらず不安行動を惹起することが明らかとなり、今後のターゲットとなりうる分子レベルでの標的を見出すことができた。 特に、飽和脂肪酸の過剰摂取により、多価不飽和脂肪酸を含有したリゾホスファチジルコリン量が減少し、それが不安行動と関連することが明らかとなり、今後は多価不飽和脂肪酸の脳内への移行や感知、脂質代謝への影響について焦点を当て研究を進める。 一方で、末梢から脳への栄養素の入り口である血液脳関門への脂肪酸の影響については、依然として解明できていない点が多く、今後上述の点と合わせて解析を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、多価不飽和脂肪酸の減少の影響を受ける中枢神経系細胞の特定、およびそれらが不安行動を惹起するメカニズムの解明を試みる。 神経伝達物質の一つであるドーパミンは情動やモチベーションを制御に大きな役割を担っているが、多価不飽和脂肪酸の影響が直接ドーパミン産生ニューロンに影響するかどうかは不明である。そこで、視床下部由来の初代培養ニューロンおよびグリア細胞を用いて、多価不飽和脂肪酸(エイコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸)曝露後の神経細胞の成熟・活性、および神経栄養因子の発現などを細胞生物学的および生化学的に解析を行い、これらの脂肪酸が直接的またはグリア細胞を介してドーパミン産生ニューロンに影響を及ぼすかどうかを精査する。 また、食事中の多価不飽和脂肪酸の有無がドーパミン系を介して不安行動に影響するかどうかを、ドーパミン産生ニューロン特異的なGFP発現トランスジェニックマウスを用いて検証する。多価不飽和脂肪酸含有食および欠乏食を摂取させ、情動・脳機能(不安様行動、空間・認知機能、社会性行動など)への影響を評価する。また、セルソーティングによりGFP発現細胞および非発現細胞における脂質組成を質量分析計により網羅的に解析する。また、脳スライスを用いてGFP発現細胞のカルシウムイメージングまたはパッチクランプを行い、ドーパミン産生ニューロンの活動を評価する。 これらの実験は、留学先であるUniversity of Montreal Hospital Research Centre (CRCHUM)のFulton研究室にて実施する。
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