研究実績の概要 |
末梢におけるエネルギー代謝異常(肥満や糖尿病など)は、うつ症状や不安障害と関連することが明らかになってきている(Fulton S et al., Trends Endocrinol Metab., 2022)。本研究課題では、食事として摂取する脂質の性質が脳機能や脳内のエネルギー代謝に及ぼす影響に着目し、初代培養細胞を用いた生化学的・分析化学的手法と肥満モデル動物を用いた栄養学・行動学的手法を用いた。 脳内における多価不飽和脂肪酸が、感情や情動の制御に重要であるかどうかを明らかにするため、その制御において重要なドーパミンニューロンと多価不飽和脂肪酸受容体(GPR120)に着目した。中脳由来の培養ニューロンにおいて、GPR120アゴニストおよび多価不飽和脂肪酸刺激により細胞内カルシウム濃度の上昇およびドーパミン放出が誘導された(Nakajima et al., Keystone Symposia Conference X5: Neuronal Control of Appetite 2022)。一方で、飽和脂肪酸の摂取によって脳内、特に側坐核における炎症反応が惹起されることが示されており。この脳領域での炎症反応が不安行動と関連することが明らかとなっている。側坐核由来の初代培養ミクログリアにGPR120アゴニストに曝露することで、炎症性サイトカイン刺激によるサイトカイン産生が抑制された。また、炎症性サイトカインの脳室内投与による活動量の低下がGPR120アゴニストの脳室内投与によって緩和することが見出された。 以上、食事によって摂取する脂質の性質は中枢神経系における脂質代謝や、情動行動と深く関連することが明らかとなった。これらの知見を手がかりとして、脂質による脳・末梢の代謝調節が情動・気分にどういった仕組みで、どのような影響を与えるのかを明らかにしていきたい。
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