研究課題/領域番号 |
19J40279
|
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
宮田 佳奈 明治大学, 明治大学, 特別研究員(RPD)
|
研究期間 (年度) |
2020-01-06 – 2023-03-31
|
キーワード | LysM型受容体キナーゼ / 菌根菌共生 / イネ / OsCERK1 |
研究実績の概要 |
イネのLysM型受容体キナーゼOsCERK1は、共生応答と防御応答という対照的な2つの応答の起動に関わる。しかし、同一の受容体がどのようなメカニズムで、適した応答を起動するのかについては、未だ詳細が明らかになっていない。OsCERK1はGPIアンカー型受容体CEBiPと複合体を形成し、キチン8量体を認識することで防御応答を起動することが知られており、私はこの知見から、OsCERK1がリガンドの種類によって複合体を形成するパートナー受容体を変えることにより、異なる応答を選択的に起動するのではないかと考えている。しかし、現時点でイネの菌根菌共生の誘導に関わるパートナー受容体の実体は不明である。 そこで本課題では、イネにおいて、OsCERK1と共に菌根菌共生に関わる受容体を探索することを目的とした。候補遺伝子として、イネが持つLysM受容体型キナーゼや、GPIアンカー型のLysM受容体様タンパク質を挙げ、それぞれの候補遺伝子についてゲノム編集技術を用いて欠損変異体を作出し、菌根菌共生の表現型の評価を行うことで、OsCERK1と共にイネの菌根菌共生に関わる受容体の解明を目指している。さらにマメ科植物の知見から、OsCERK1と相互作用する可能性のあるOsSYMRK受容体に関しても着目して機能解析を行っている。 本年度は、特に候補遺伝子群の欠損変異体の作出を行っており、その結果それぞれの候補遺伝子について、欠損変異体を複数ライン獲得することが出来た。今後は、これらの欠損変異体を用いて、菌根菌共生の表現型解析を行い、イネにおいて菌根菌共生の誘導に関わる受容体の同定、及び下流メカニズムの解明を目指して研究を継続していく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、特に形質転換体の作出を中心に研究活動を行った。共生時の応答として観察されるCa2+イオンの濃度変動(Ca2+スパイキング)検出に用いるイエローカメレオンタンパク質を過剰発現させた植物体に対し、ゲノム編集技術を用いてOsSYMRK遺伝子の変異を誘導した。形質転換の結果、複数のossymrk欠損変異体ラインを獲得することが出来た。 また、イネには10種類のLysM受容体型キナーゼ、および12種類のGPIアンカー型LysM受容体様タンパク質が存在する。このうち、特に根で発現が見られる3つのLys受容体型キナーゼに関して形質転換体の作出を行い、変異体ラインの獲得に至っている。加えて、GPIアンカー型LysM受容体様タンパク質のうち、多くの植物に保存されており構造的に類似している3つの遺伝子に関しても候補受容体と考えており、機能重複を想定して3重変異体の作成を試みている。 これまでの結果から、LysM受容体型キナーゼであり、根粒菌共生に関わるNFR5/NFPのイネホモログである、OsNFR5に関しては、欠損変異体で菌根菌共生が正常に起こることが示されてきた。しかしデータベース解析の結果、イネ内にもう一つOsNFR5に近い構造を持つ受容体があることが判明した。この遺伝子をOsNFR5-2と名付け、欠損変異体の作出を行った結果、OsNFR5-2遺伝子領域が大きく欠損した変異体が得られた。またosnfr5;osnfr5-2二重変異体も作出が完了している。 これらの形質転換体の作出に加え、2020年度はタバコの葉で過剰発現させた候補受容体タンパク質と、菌根菌を誘導するシグナル分子であると想定されているキチン4量体同士の結合解析も試みた。また、BiFC法とCO-IP法を用いてOsCERK1と候補受容体の相互作用解析に関しても解析を進めており、解析に必要な予備実験は当該年度でほぼ完了した。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究活動により、OsCERK1と共に菌根菌共生に機能すると考えられる多くの候補遺伝子に関して、それぞれ複数ラインの欠損変異体を獲得するに至った。2021年度は、これらの候補遺伝子の欠損変異体を用いて、菌根菌共生の表現型解析を予定している。また、欠損変異体に関して、菌根菌接種時の菌根菌共生マーカー遺伝子の発現解析も行う予定である。 また、共生応答の指標とされるCa2+スパイキングに関して、現在イネにおいて安定して評価できるように、実験の条件検討を進めている。作出した候補遺伝子の欠損変異体に関して、Ca2+スパイキング解析を行うことで、共生応答の下流応答に関して多角的な解析を目指す。 さらに、菌根菌共生の表現型に関して影響が見られた候補受容体に関して、本年度予備実験を進めてきたBiFC法やCO-IP法を用いて、OsCERK1と候補遺伝子の結合能の評価も行う。加えて、タバコで過剰させた候補受容体タンパク質を用いて、イネにおける菌根菌共生のシグナル分子であると考えられているキチン4量体との結合に関しても評価する予定である。 これらの実験を通して、引き続きOsCERK1と共に菌根菌共生において機能する受容体を明らかにし、防御応答と共生応答の選択的起動メカニズムの解明を目指す。 2020年度は感染症の拡大から、一時的な実験の遅れや、学会の中止などがあったことから、学会で研究結果を発表する機会を殆ど持つ事が出来なかった。2021年度は、これまでの研究結果を学会にて広く発表し、また他の研究者との議論を深めることで、本研究をさらに展開させていきたいと考えている。
|