研究課題/領域番号 |
19J40281
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
氏家 悠佳 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第五部, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2023-03-31
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キーワード | シュワン細胞 / グリア細胞 / ミエリン / 末梢神経 / 低酸素応答因子 |
研究実績の概要 |
シュワン細胞は段階的な分化過程を経由して髄鞘形成に至ることが報告されているが、その詳細な分子機構は不明な点が多い。これまでに末梢神経髄鞘化に関わる遺伝子スクリーニンングから低酸素誘導因子(HIF)に着目し、HIF1αがシュワン細胞の分化促進因子となる可能性を見出し、神経傷害後の再髄鞘化におけるHIFの役割に着目してきた。これまでに傷害後の坐骨神経の再髄鞘化に伴い、シュワン細胞においてHIF1αが安定発現することを見出し、傷害後の坐骨神経において対照群では薄い層の髄鞘で覆われる軸索が多く認められるのに対し、シュワン細胞特異的HIF1α欠損(cKO)マウスでは不完全な髄鞘を形成する軸索の発現頻度が高い傾向が認められることを明らかにしてきた。 本年度は、傷害後末梢神経の再髄鞘化へのHIF1αの寄与を詳細に検討するため、感覚および運動神経の機能評価を行った。von Frey testを用いて痛覚閾値の回復を評価した。神経損傷後、感覚鈍麻が生じて一過性に痛覚閾値が上昇するが、痛覚閾値は経時的に回復する。傷害後2-3週において、cKOマウスでは対照群に比して痛覚閾値の回復が遅延していた。また、toe spreading assayにより後肢の第1指から第5指までの間隔を測定した。傷害後にその間隔は一過性に狭くなるが、機能回復とともにより徐々に間隔が広がる。傷害後cKOでは、対照群よりもその間隔が狭く、感覚・運動神経の機能回復が遅延していた。以上よりシュワン細胞のHIF1αの安定発現が末梢神経の再髄鞘化の促進に寄与する可能性が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子改変マウスの交配は順調にできており、滞りなく実験に供給できている。次年度に、計画しているマウス坐骨神経から単離したシュワン細胞の培養に関して、準備段階としてS100β-EGFP Tgマウスの坐骨神経からシュワン細胞の単離培養できることを確認できている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、シュワン細胞において安定して発現したHIF1αが核へと移行し、転写因子としてどんな遺伝子セットの転写を活性化し、髄鞘化を促進するかを明らかにする目的で、Chromatin integrin labeling法を用いて、抗HIF1α抗体の染色で陽性となったシュワン細胞の核内で増幅したRNAからライブラリー作製し、シュワン細胞においてHIF1αによって転写活性化される遺伝子群について網羅的解析を進め、髄鞘形成に関わる遺伝子セットが含まれているか評価する。また、cKOマウスの坐骨からシュワン細胞を単離培養し、HIF1αの安定化によって転写活性化が認められた遺伝子群についてqPCRでmRNAの発現変動を観察し、loss of function の観点からミエリン化におけるHIF1αの役割を検討する。さらに、低酸素環境を感知するHypoxyprobeを用いて傷害後坐骨神経内の酸素環境の変化を検出し、再髄鞘化が進行中の傷害後神経の末梢側においてシュワン細胞でHIF1αが安定発現する誘導因子について検討していく計画である。
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