研究課題/領域番号 |
19J40290
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
赤間 知子 北海道大学, 大学院理学研究院, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 3項間漸化式 / 虚時間発展 / 希土類錯体 |
研究実績の概要 |
本研究では、分子系の超高速電子・スピンダイナミクスを記述するために、3項間漸化式に基づく高速で高精度な電子状態ダイナミクスの非経験的理論計算手法を開発し、希土類分子における超高速電子・スピンダイナミクスのメカニズム解明に取り組むことを目的としている。 初年度である今年度は、主に行う予定であった理論計算手法の開発と並行して、応用研究の対象として予定していた希土類分子に関連する化合物についての研究も行った。 まず、理論計算手法の開発として、虚時間発展法に対する3項間漸化式法の開発を行った。実時間発展のSchroedinger方程式・量子Liouville方程式に対する3項間漸化式法では、時間発展演算子は虚数単位iを含む指数関数の形で表される。この時間発展演算子を、Eulerの公式により正弦関数と余弦関数の分解し、演算子変換に逆三角関数を用いることにより、効率的時間発展を可能にするシンプルな3項間漸化式が導出される。これに対し、虚時間発展の場合の方程式は、虚数単位が時間に含まれる形になるため、時間発展演算子には虚数単位iが含まれず、Eulerの公式を適用できない。本研究では、指数関数の和で表される双曲線関数を用いることにより、この問題を解決した。つまり、逆三角関数の代わりに逆双曲線関数を用いた演算子変換を導入することにより、時間発展を記述するシンプルな3項間漸化式の導出に成功した。この定式化に基づきプログラムの実装を行った。 また、初年度の研究計画にはなかったが、希土類元素であるユーロピウム(Eu)やテルビウム(Tb)を含む8配位及び7配位錯体に関する理論的研究も行った。基底状態における安定構造や分子軌道、発光過程・緩和過程に関与すると考えられる複数の励起状態について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である今年度は、主に理論計算手法の開発を行う予定であったが、研究計画を少し変更し、理論計算手法の開発と応用研究の両方を行った。 当初の計画にあるように、3項間漸化式法の適用による虚時間発展法を用いた高精度電子状態計算の効率化のため、まず虚時間発展法に対する3項間漸化式法の開発に取り組んだ。実時間発展ではなく虚時間発展を記述する3項間漸化式の導出を行い、プログラム実装を行った。また、RT-TDHF法をGUHF法に拡張したスピンダイナミクスを記述する方法の開発にも着手した。また、初年度の研究計画にはなかったが、応用研究の対象として予定していた希土類分子に関連する化合物として、ユーロピウムやテルビウムといった希土類を含む錯体についての理論的研究も行った。 以上の理由からおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今年度に定式化・プログラム開発を行った虚時間発展法に対する3項間漸化式法の開発の研究をさらに進め、手法の検証等を行う。今年度の研究で途上となっているRT-TDHF法をGUHF法に拡張したスピンダイナミクスを記述する方法についての研究も継続し、多配置Ehrenfest法とRT-TDHF法を組み合わせた方法の開発にも着手する。また、研究計画にある希土類分子の超高速電子・スピンダイナミクスに応用研究に向けて、希土類錯体についての理論的研究も継続して研究を行う予定である。
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