研究課題/領域番号 |
19K00004
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
檜垣 立哉 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (70242071)
|
研究分担者 |
久保 明教 一橋大学, 大学院社会学研究科, 准教授 (00723868)
近藤 和敬 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (90608572)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 現代フランス哲学 / 人類学 / ドゥルーズ / ブルノ・ラトゥール / フィリップ・デスコラ |
研究実績の概要 |
今年度に関しては、科研費を利用した会合およびワークショップ、関連主題による国際学会発表などを計画していたが、コロナウイルス蔓延の状況を受けて、研究の進捗はとりわけ年度前半については相当の遅延および中断に追い込まれたことは事実である。とはいえ、後半についてはZoomなど遠隔を利用することで、いくつかの企画を、精力的におこなうことができたと考える。具体的には、 科研費の関係において、研究分担者の近藤和敬の著作『ドゥルーズ=ガタリの『哲学とは何か』を精読する』(講談社メチエ)の合評会、研究分担者久保明教の著作『家庭料理という戦場』(コトニ社)と檜垣の著作『食べることの哲学』(世界思想社)を巡るワークショップ、そしてレヴィ=ストロースをつぐフランスの人類学者フィリップ・デスコラの『自然と文化を越えて』(水声社)の翻訳の合評会をおこなった。この合評会は、翻訳者の小林徹氏を招へいし、一回目は人類学の方面から、二回目はフランス哲学の方面から多角的に検討をおこなうものであり、相当の時間をかけて、人類学者・社会学者・哲学者のあいだで討議をおこなった。また澤田哲生『幼年期の現象学』合評会も行い、フランス哲学と幼児心理学の方向から当該科研にもかかわる内容の検討をおこなった。以上はすべてZoomによる開催であるが、今後を考えれば、この流れは継続されるとおもえ、また通常の対面形式でおこなうことよりも、多くの参加者を集めることができたというのも事実である。 計画していた海外学会発表はなかなか想定通りにはできなかったが、来年度最終年をむかえることもあり、本研究の成果を、とりわけ、デスコラを巡る人類学者・社会学者・哲学者との対話で得た成果を軸に、共著形式で刊行することを計画しており、基本的には出版社にも仮の了解を得ることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
繰り返しになるが、今年度は新型コロナウイルスの影響で、充分に計画通りの進捗を進めることができなかったことは事実である。だが、しかしながら、上述したように、遠隔システムやZoomなどをもちいたワークショップ、合評会、研究集会は、とりわけ後半において充分に機能し、計画通りの進捗に近づくことはできたといえる。今年度前半にかんしては、計画していた国際学会もほぼ中止に追い込まれ、計画はおおきく狂ったが、これに関しても、後半以降、Zoomそのほかによる国際会議がむしろ全世界的に定型的なものになってきており、回復が見込まれる。それゆえに、この点に関しては今年度充分な実績をあげることができなかったとはいえ、それは全世界的な状況であり、なおかつすでにその代替機能も動き始めている事情を考えれば、現状の進捗の遅れは今後の活動によって充分に補えるものであると考えられる。 人類学と哲学との新しい関係性の設定を巡る本科研は、とりわけ人類学分野で、フランスポストモダンを受けとめた新たな動きが多発しており、それらを哲学の方向から、また人類学者や社会学者も交えてどのように考えるかを主軸とするものであった。その意味では、日本にようやく導入がすすんできたレヴィ=ストロース以降の人類学者であるデスコラや、あるいはブリュノ・ラトゥール、ヴィヴェイロス・デ・カストロの思想の研究を着々と進めており、最終年に向けて、研究分担者そのほかで研究を統合した成果を刊行すべく努力しているところである。前述したように、共著による刊行書籍の計画も立てており、総じて順調に進行しているといえると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
来年度は最終年度を向かえることもあり、哲学と人類学の交錯を巡る問題系に関して、この科研メンバーに閉じるだけではなく、他に類似の研究をおこなっている人類学・社会学・哲学のそれぞれの研究者との連携を軸として、国際的な発表の機会もおこなうことによって、本来の目的を遂行しようと考える。ただし、本年度に海外渡航として計上していた経費が、一切の海外交流が不可能になってしまったために残存しており、来年度にかんしても多くはZoomそのほかの遠隔によってなされることが予想されるため、経費の残存の程度によっては一年間延長し、先にあげた研究のとりまとめとなる共著出版の版下代などにもちいることも検討している。現在の研究状況が新型コロナウイルス下の異常状態であることは間違いがなく、研究自身は適切に進行しているものの、数多くの場面で不自由が強いられていることは事実であり、考慮いただければとおもわれる。 来年度は、Zoom遠隔によって確立した、本科研に連関する関連書籍のワークショップおよび合評会を引き続きおこない、科研の研究を広く公開的に推進するとともに、最終的な科研の成果の統合に向けて1)レヴィ=ストロース以降、20世紀における哲学と人類学の交錯が積極的に進められてきたが、それが21世紀の時代になってどのような新しい像を結ぶのか。2)とりわけデスコラやラトゥール、ヴィヴェイロス・デ・カストロなどによる、非人間主義、アクターネットワークセオリー、多自然主義等は、どのように21世紀哲学に影響を与えるのか、に焦点を絞りつつ、交錯の歴史を辿りなおしつつ検討をおこない、成果の公刊というかたちに向けて、執筆者相互の検討会などを、Zoomを利用しておこなっていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、当初計上していた国内および海外の旅費を使用することがほとんどできない状態になったため、これをZoomでの合評会やワークショップ、あるいは物品の購入に振り替えたが、それでもなお使いきることができす、繰り越す必要が生じたためである。新型コロナウイルスの影響においては、今後とも先行きがわからないため、現状においては旅費を予定にいれてはいるものの、招へいにせよ国際学会にせよ、遠隔でおこなわれる可能性が高く、やむなく再度の繰り越しになるか、あるいは成果報告の書籍が早期に完成される状況になれば、これのための版下代として支出するなどして、合理的で無駄のない予算執行を計画しているところである。新型コロナウイルスの状況は先が見通せないため、しっかりした計画が立てられないが、Zoomなどを利用することにより研究自体は進展しているので予算を適切に振り分け直して対処することとしたい。
|