現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)令和3年度に行った研究の内、公表していない部分について論文執筆を行った。H. Spencerらの進化論から、(環境との相互作用においてより複雑な機能が分化していくという)システム論的な発想を析出し、研究実績に記載した成果を上げることができた。すなわち、還元主義的科学哲学が創発を認識論的なものでしかないと批判してきたのに対して、スペンサーの思想を「進化論的認識論」として解釈することで、創発に対する批判の再検討を行った。 (2)これと平行して、S.Alexander, Space, Time, and Deity, C. L. Morgan, Emergent Evolutionといった、代表的な創発主義の著作から、創発の具体的な内実を明らかにすると同時に、彼らが前提としていた科学論についての考察を行った。そのことを通して、創発という概念が、環境の中での意味の生成に注目するものであり、この観点からすれば、科学の営みすら一種の創発と見なすことができるということを明らかにすることができた。還元主義的科学哲学は創発主義を実体論的なものとして解釈しがちであるが、創発主義者は創発を、環境を含めた新しい関係性が生まれることとして考えているのである。ただし、この成果については論文を執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、昨年度に行った研究の内、公表していない部分について論文執筆を行う。その上で、創発や進化論的認識論といった着想が現代の科学哲学にどのような寄与をなしうるのかを検討する。まず、還元主義的科学哲学と複雑系の科学との論争を振り返る。還元主義的科学哲学の代表例としてE.Nagel, The Structure of ScienceやC. G. Hempel, & P. Oppenheim, "Studies in the Logic of Explanation"を、還元主義批判をおこなった複雑系の科学の典型としてS. A. Kauffmanの主張を検討する。その際、現代における心の哲学(例えば、J. Kim, Mind in a Physical World)や生物学の哲学(例えば、K.Sterelny & P.E.Griffiths, Sex and Death, Chap.7)における創発をめぐる議論を踏まえた上で、Van Frassen, The Scientific Imageにみられる反実在論的科学論と実在論的科学論とのの論争点について進化論的認識論の立場から調停を試みる。
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