研究課題/領域番号 |
19K00008
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
飯嶋 裕治 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (80361591)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 行為 / 行為の反因果説 / 行為の意味 / 行為の全体論的構造 / 徳 / 和辻哲郎 / ジョン・マクダウェル |
研究実績の概要 |
2019年度はまず、研究計画に示した手順①「和辻の倫理学理論に見出される行為論の提示」に主に取り組んだ。 その成果として挙げたいのは、2019年11月に著書『和辻哲郎の解釈学的倫理学』を刊行したことである。本年度の前半は、その最終的な仕上げ作業に注力することができた。本書では、和辻の倫理学理論の全体像を示した上でその理論的可能性を検討しているが、この作業の一環として、本研究課題にも直接関わる彼自身の哲学的行為論を取り扱った。 また、2019年10月開催の日本倫理学会の大会シンポジウム「和辻倫理学の可能性」では、特にこの行為論の部分を主題的に取り上げて提題発表を行なった(「和辻哲郎の準目的論的行為論──現代行為論の文脈から」)。そこでは単に和辻の行為論を紹介するだけでなく、彼の議論を現代の(特に分析哲学における)行為論の枠組の中に位置づけ直すことで、手順②「和辻の行為論を現代の議論状況の内に位置づける」にも着手したことになる。この発表では、その最大の理論的特徴として、心的状態を行為の原因と見なす心理主義的な因果説の立場を批判し、「行為の意味」を行為成立の要件として最重要視するという点で、反因果説の立場に近しいものとして位置づけた。またこうした立場は、和辻の倫理学の根本概念でもある「間柄・人間関係」から基礎づけられているという点についても指摘した。 さらに2019年度の後半には、勤務先の大学院の演習でJ・マクダウェルの著作(『心と世界』「徳と理性」)を取り上げて講読し、手順③「知覚と行為に横断的に関わる概念能力としての「徳」の探究」を進展させた。加えて、心理主義的ではない行為論に関する現代の議論としてM・トンプソン『生と行為(Life and Action)』に注目し、研究会の場で継続的にその読解に取り組んでいる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に示した手順①(和辻の倫理学理論に見出される行為論の提示)に関しては、今年度で概ね達成することができた。 手順②(和辻の行為論を現代の議論状況の内に位置づける)は、その最初の成果を学会で発表することができた。 本研究課題の中心となる手順③については、具体的な研究対象(マクダウェル、トンプソン)を定め、取り組み始めることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究は上述の手順③が中心となるが(それに伴って手順②の問題も自ずと明らかになってくるはずである)、その遂行にあたっては、研究計画で示した3つの論点が関わってくる。 すでに検討し始めたマクダウェルの議論は、「概念能力としての徳」の解明に関わる(論点C)。そこでの徳とは、目前の状況をあらかじめ概念的に分節化された有意味なものとして知覚させ、そこから然るべき行為へと端的に動機づけるような力として考えられているが、まずはその仕組みのより詳細な解明が求められる。 またこうしたマクダウェルの議論が、「世界内の非概念的な特徴への端的な反応」として没入的対処を捉えるドレイファスからの批判に対し、どれだけ耐えうるものであるのかを検討しなければならない(論点B)。そこで模索すべきは、徳が(反応ではなく)応答する「理由」というものの実在性についてである。この論点は、対ドレイファスだけでなく、心理主義的な行為論を批判するという意味でも重要であり、上述したトンプソンやJ・ダンシーらの議論を参照する予定である。 さらにその後の漠然とした見通しとなるが、以上のような問題を総体的に捉えていくためには、ハイデガーの「有意義性」に関する議論に改めて立ち返って考える必要があるだろう(論点A)。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月に研究打合せのための国内出張を予定していたが、新型コロナウィルス流行の事態を受け、取りやめた。その分の助成金は、翌年度に事態が落ち着き次第、改めて出張費用として使用する予定である。
|