研究課題/領域番号 |
19K00010
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
新名 隆志 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 准教授 (30336078)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ニーチェ / 自由意志 / 道徳的責任 / 両立論 / 非両立論 / ニヒリズム |
研究実績の概要 |
2022年度の主な実績は次の論文である。 新名隆志(2023)「ニーチェにおける自由と責任――彼はそれらの何を否定し,何を肯定したのか」『鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編』74。 本論文の目的は二つある。一つは,自由意志と道徳的責任についてのニーチェの思想が,現代の自由意志と道徳的責任の哲学の文脈においてどのような位置づけをもつかを明らかにすることである。本論文は,ニーチェが自由意志の哲学における「究極性論証」と同様の議論を提示しており,その点において,彼を自由意志と道徳的責任の懐疑論者として,非両立論的立場に位置づけることができるということを従来の研究以上に明確に示した。 もう一つの目的は,ニーチェがそのような懐疑論者でありながらなお肯定的に語る「責任」とは何かについて従来の研究以上に明確で説得的な解釈を提示することである。本論文は,『道徳の系譜学』第二論文の良心論に依拠し,ニーチェが肯定する「責任」とは,自分の意志するものを意志しうるようになった自律的個人が,自分の意志するものにコミットすること,そのように自分に約束すること,このことにおいて自分の「良心」をもつことを意味すると解釈した。この意味での「責任」は,賞罰責任としての道徳的責任とは異なり,道徳の軛から解き放たれた「主権的個人」において初めて可能となる,非道徳化された責任である。本論文の内容は,自由と責任の批判というニーチェの道徳批判の重要な一面について,先行研究をふまえてこれまで以上に根拠のある明確な解釈を提示するものであり,ニーチェの道徳思想の解明を目的とする本研究課題にとって大きな意義をもつものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基本的な目的は,ニーチェの重要概念としてよく知られながら,その重要性や意義についての理解がほとんど進展していない「遊戯」の概念を理解し,永遠回帰・力への意志・生の肯定といったニーチェの中心的な思想におけるこの概念の重要性を明らかにすること,そして,この概念からニーチェの道徳思想を捉え返すこと,さらにはその道徳思想に基づいて現代のメタ倫理学的立場について新しい視座を得ることである。 2019年度の論文「遊戯としての行為――ニーチェにおける遊戯(1)」,また2020年度の二つのシンポジウム発表に基づき2021年度に表した論文,「人生の意味に関するゲーム節の提唱」および「苦しみの価値転換によるニーチェの生肯定」によって,本研究はすでに,ニーチェにおける「遊戯」概念の成立過程や,力への意志や生の肯定といった中心思想におけるこの概念の意義を多角的な視点から明らかにしてきた。 遊戯概念とニーチェの道徳思想との関係を解明するという本研究課題の一つの大きな目的については,これまでの研究で決定的な成果は出せていない。しかし,ニーチェの道徳思想については,研究計画当初から理解も深まっており,当時は見通すことができなかった解釈の進展がある。2022年度の論文「ニーチェにおける自由と責任――彼はそれらの何を否定し,何を肯定したのか」はまさにその一部である。こうした解釈の進展に伴い,現代メタ倫理学におけるニーチェの道徳思想の位置づけという問題についても,見通しを再検討する必要があると考えている。遊戯概念の重要性はふまえつつも,研究計画当初の予想に無理にこだわらず,ここ数年の研究成果を活用しながら,ニーチェの道徳思想について意義のある研究を進めることが重要だと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,2010年度の論文,また,2020年度のシンポジウム発表と2021年度のその論文化,さらにはその他の研究発表において,ニーチェの遊戯概念と,力への意志や生の肯定といった彼の中心思想との結びつきについての解釈を提示してきた。これらは,本研究の申請書で掲げた6つの仮説の内の特に①,②,③の論証に関わる議論と,申請時には明確でなかったアイデアを展開した議論を含んでいる。 2022年度から,ニーチェの道徳思想とその現代的意義の解釈に研究の重心を移したが,研究を進める中で,この現代的意義については研究計画当初には見通せなかった理解の進展があり(その成果を論文に著した),また,ニーチェの道徳思想のメタ倫理学的意義についても当初とはやや異なる解釈可能性も見えてきた。 したがって,2023年度は本研究計画の最終年度となるが,ニーチェの道徳思想について申請書で掲げた仮説④,⑤,⑥の論証にはこだわらず,ここ数年の研究成果をふまえ,自由な視点と発想でニーチェの道徳思想を検討し,現代倫理学におけるその意義について新しく説得的な解釈を構築していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度の未使用額が106,650円あったため,2022年度は当該年度の支給請求額400,000円を超えて461,636円を使用したが,45,014円が次年度に繰り越しとなった。2022年度はそれまでと異なり旅費を使用する機会もあったが,計画当初予定していたほどの機会はもてなかった。 2023年度は対面実施の学会・研究会に参加できる機会も増えると思われるので,未使用分を主にその費用に充てたい。
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