今日の日本での研究倫理に含まれる「研究に対する圧力の適正な処理」「被験者の保護」「研究者の安全確保」「実験動物虐待防止」「環境汚染防止」「研究不正防止」「研究費不正使用の防止」「研究成果発表における不正防止」「製品を使う消費者の保護」「研究成果利用に対する責任」という10の課題の歴史的背景を解明するのが本研究の目的であった。 2019年度は、倫理学として研究倫理等の具体的問題に取り組む際の留意点を総括し、「被験者保護」に関する考察を深めた。また、道徳教育と人権教育の本質に関して考察しつつ、研究倫理教育改善の方策を模索し、「研究倫理」の授業や研究倫理研修に関する助言等に活かした。 しかし2020年度以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行により、研究を計画通り進めることができなくなった。掲げた課題の全てに関する研究成果を挙げることはできず、学会発表も計画通りには行えなかった。 それでも2020年度は、倫理教育の基礎となる生死観に関して招聘講演を行なうとともに、研究不正の一例として考古学における旧石器捏造事件に関する研究成果を教員免許状更新講習のテキストの一部として執筆した(講習中止のためテキストは未発行)。2021年度は、「研究に対する圧力」の一つである利益相反に関する学会招待講演、「健康」の概念に関する招待講演などを行なった。所属先で分担する科目「研究倫理」では「研究不正」と「研究費の不正使用」に関する研究成果を活かした。研究期間を延長した4年目の2022年度は、「研究成果発表における不正」である盗用に関する研究の成果を、大阪公立大学の新設科目「研究公正」の分担授業に反映させた。また、「研究成果利用に対する責任」に関して軍事医療倫理学に関する研究成果を共著の一部として公刊した。
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