研究課題/領域番号 |
19K00015
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
松本 由起子 北海道医療大学, 心理科学部, 講師 (10438335)
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研究分担者 |
野々村 淑子 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (70301330)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 精神分析 / 家族像 / 教育制度 / 階級 / 英国 |
研究実績の概要 |
本研究は、「科学」たろうとする精神分析の普遍化への志向に、一次史料調査研究をもって逆らい、精神分析における家族像の推移を歴史化することを目指す。 当該年度の具体的な研究目標は、(1)精神分析における規範的家族像を、元小学校教員で、精神分析家への転身に成功したエラ・シャープが行なった、家族・教育をめぐる情報操作を用いて検討し、(2)規範的家族像をめぐる中産階級と労働者階級の対立と直結する教育制度において、分断の線上に位置する Pupil Teacher Centre、ことにシャープの勤務校が教育行政の保守化によって廃止に至るまでの視学官による視察記録やそれらに付随する資料を辿って、階級的な規範的家族像と教育政策の連動を解明することであった。 上記2点の分析は完了し記述もほぼ完了した。その際に必要であった、シャープおよび同世代の分析家の家族・教育に関する現地調査は、シャープが分析家教育を受けたベルリンと、分析家として活動したロンドンで行なった。ベルリンでの調査は、現地研究協力者の甚大な貢献により、ドイツにはシャープ関連資料はこれ以上はないとほぼ確信できるところまで調査が進んだ。ロンドンでの調査先との連携への協力もあり、ウェルカム・ライブラリー、フロイト博物館とならんで、英国精神分析協会アーカイブスにアクセスし資料入手が可能になった。 ベルリンの研究協力者とは来日時期など招聘の打ち合わせをし、それを受けて研究分担者と招聘計画の打ち合わせを行ない、招聘協力を得られそうな機関と交渉中である。 なお。研究分担者の提案により、研究協力者1名を加えた研究組織に拡大した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
精神分析の症例報告と、フロイトの没後、後継をめぐってクライン派とアナ・フロイト派が対立した「論争」をめぐる資料から、精神分析における規範的家族像のあり方とその変化を捉え、分析家としてのシャープが労働者階級としての出自を曖昧にし、中産階級自己像を演じたことを手掛かりに、規範的家族像の輪郭を明らかにした。 シャープの勤務したPupil Teacher Centre の3回の視察記録と、視学官とセンター管理者による会議録、視学官と地元教育委とのやりとり、およびセンターが中産階級的教育を行なっているとアピールする目的でシャープらみずからが作ったとみられる学校生活を紹介するスクラップブックを分析し、教育行政による中産階級的家族像に準じる教育と、そのような教育を経た大卒小学教員化への動きと、当時セミ専門職であった小学教員の職業訓練校としてのセンターのあり方が、どの点でずれているとされたかを具体的に示し、教育行政や制度と、階級的家族像の関連を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
研究が順調に進んでいるため、計画通りの遂行を予定している。ただし、新型コロナの影響で一時保留になっていた招聘計画に若干の遅れが生じる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
2月の出張について、学内旅費規程により、実費を全額を請求すると上限を超える一方で、今年度を予定している研究協力者招聘に要する予算がもともと十分ではないため、2月の出張については航空券代のみ計上し、次年度以降に予算を用いる計画にした。
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