研究課題/領域番号 |
19K00015
|
研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
松本 由起子 北海道医療大学, 心理科学部, 講師 (10438335)
|
研究分担者 |
野々村 淑子 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (70301330)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 家族史 / 精神分析 / エディプス / 母子関係 / イギリス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、第二次世界大戦前後の精神分析理論と実践とを通じて、そこに見られる規範的な近代西洋の家族像を、分析の当事者である分析家の家族像とあわせて検討して、近代家族史を再構成し歴史化することにある。現代において広範に「一般的・普遍的な家族像」と考えられがちなイメージを、まさにそういった家族像を前提とすることで個々人の「精神」の分析・統合を試みた精神分析の潮流と周辺情報の関連づけによって歴史化し、「家族史」に着地させて、家族をめぐる普遍性と時代的特異性を問い直す。 今年度の成果としては、家族像に問題を抱える男性の症例を中心的に示し、現代的な臨床手法で「解決」を志向するPreventing Suicide (Henden, 2008)を『自殺をとめる』(新曜社)として翻訳し上梓した。昨今の自殺をめぐる状況にあって、本研究課題の問題設定を踏まえて、社会的課題に現実的な意味で即応しうる情報を発信できたと考えている。 一方で、当初計画では(a)クライン派の理論と実践に見る家族像の推移を検討、(b)シャープ, メラニー・クライン、アナ・フロイト、スーザン・アイザックスの家族・教育と、理論・実践における家族像の照合、(c)各者の「論争」におけるスタンスと家族像の関係、(d)精神分析的家族像をめぐる現実と幻想の関係、(e)精神分析における規範的家族像をめぐる「論争」の役割の解明、(f)分析史と家族史の接続に関するセミナー主催(海外研究協力者2名の招聘)、(g)シャープを教育分析したハンス・ザックス(米国に亡命)に関する現地調査を計画していたが、COVID-19による影響は避けがたく、上記(f), (g)については延期せざるを得なかった。現在の国内外の状況に関する情報収集をおこないながら、研究の遂行時期についてはモニタリングと交渉を継続し、可能な限り早い段階での計画実施を目指している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、20世紀前半に活動した、知名度は比較的低いが臨床的評価が(当時から)高く、精神分析史研究から抜け落ちてきた英国の精神分析家に焦点を合わせ、精神分析の流れを再検討することを目的としている。このためには、フロイトの亡命から第二次世界大戦に至る時期に、多くはユダヤ系である分析家が広範に移動し、臨床のありかた変化をもたらした状況の分析・検討が欠かせない。 そこで(1)研究の主眼である家族像の変化をめぐって、それぞれ大陸での状況に詳しい分析史(在ベルリン)と、臨床福祉および研究対象のエラ・シャープの専門家である分析家(在シドニー)を海外研究協力者とし、両者を招聘しての研究・検討会、(2)現地資料収集を計画していたが、COVID-19の感染拡大のために延期せざるを得なかった。
|
今後の研究の推進方策 |
上記の状況を踏まえ申請者は、国内で可能な文献調査や、翻訳による海外知見のアウトリーチをおこないつつ、予定していた海外研究協力者との交渉を継続してきた。検討を踏まえ現在、下記のような方針に立って研究計画の遂行をおこなっている。(1)直接の招聘の可能性は捨てていないが、オンラインでの研究会開催の可能性についても現在検討をおこなっている。(2)資料については、稼働している文書館については、資料の単価は上がり、効率は良くないが、電子的に資料を取り寄せるオンライン調査もおこなう(2020年度にすでに一部開始)。(3)2020年度、招聘不能によって生じた研究の遅れについては、研究期間の1年延長を申請し、当初の予定に即した研究とする。(4)コロナに関連して学会発表にも滞りが生じたため、書籍による刊行の企画交渉をおこなう。
|
次年度使用額が生じた理由 |
COVIC-19の感染拡大によって、2020年度に予定していた海外研究協力者の招聘を行うことができず、次年度に持ち越すこととなった。予定していた研究会やセミナーのオンライン開催に用いる予定で、共同研究者と開催の打ち合わせをおこなっている。
|