研究課題/領域番号 |
19K00017
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山本 剛史 慶應義塾大学, 教職課程センター(三田), 講師(非常勤) (20645733)
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研究分担者 |
吉永 明弘 法政大学, 人間環境学部, 教授 (30466726)
熊坂 元大 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 准教授 (60713518)
小松原 織香 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 客員研究員 (20802135)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 福島第一原子力発電所事故 / 東日本大震災 / 予防原則 / 環境正義 / 原発労働者 / 希望 / 検出下限値 / 市井の人々の思想 |
研究実績の概要 |
初年度は、まず6月に「21世紀における「ローカルな環境倫理」についての包括的研究」(科研費番号16K02132)からの継続として、学術雑誌『環境倫理』第3号(ISSN2434-978X)を刊行した。編集委員として山本、吉永、熊坂が参加し、特集に吉永、山本、論説に小松原がそれぞれ寄稿した。 本研究独自の取り組みとして、6月22日と23日の2日間に慶應義塾大学にて合宿形式で事前学習会をした後、8月22日と23日に福島県浜通りに出張し、「いわき放射能市民測定室たらちね」、「フクシマ原発労働者相談センター」、「希望の牧場・ふくしま(吉澤正己氏)」の計3件のインタビューを行った。これらの成果報告の手始めとして、12月22日に慶應義塾大学において、報告会を実施した。人数は多くないものの、当方の研究に関心の高い参加者との有意義な質疑応答を行うことができた。また並行してインタビューを文字起こしし、現在各インタビュイーに文面の校正を依頼しているところである。 本研究は、従来の環境倫理学が福島第一原子力発電所事故が引き起こした諸問題に十分に応答できていないという事実認識を前提の一つとして、当事者が培ってきた知恵や思想の掘り起こしと当事者間という枠を超えた共有を目指している。インタビューおよびそれに関する考察は、報告会を除きまだ世に出せていないが、インタビューでは一般的には知られていない事実や当事者の心情、また事故や現状の生活に対する当事者の理解(首都圏あるいは西日本在住の各メンバーが体験しえない諸事実に基づく考え方、感じ方)をお教え頂いた。また、事後のやり取りの中で気づかされたこともあり、グループ全体でこれらをどのように解釈して世に問うていくかが問われるところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書執筆の段階では原発事故被災当事者へのインタビューは吉澤氏しか対象として想定できていなかったが、吉澤氏ご本人にも受けて頂いた他、科研グループ内外からの紹介もあり、計3件のインタビューを実施できた。4名が全国に拡散している中、最低限事前学習と報告会を共に実施できた。成果物は出来ていないが、順調に準備を進めている。 各メンバーの分担研究に関しては、特に吉永と小松原が多種の業績を残すことができたほか、熊坂が生田武志『いのちへの礼儀』(筑摩書房)の共同通信配信による書評を記し、吉永が秋津元輝ほか編『農と食の新しい倫理』(昭和堂、2018年)の書評を『社会と倫理』第34号(南山大学社会倫理研究所)に寄稿した。加えて吉永はWebマガジン「α‐シノドス」に3本の環境倫理学関連記事を寄稿した。さらに、現在初学者を主な読者に想定する環境倫理学の概説書を、他の研究者とともに本科研費メンバーが参加して執筆している。メンバー担当個所に関しては、初年度の本科研費研究の成果を反映させた内容となる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はまず前年度の取材に考察・総論を本グループによって書き足す形で、成果物を学術雑誌『環境倫理』あるいはその他のいずれかの形で刊行する予定である。また、コロナウィルス禍の影響で実施できるかどうか不透明ではあるが、本年夏に申請書に記した犬養光博牧師への面会を行う予定である。これによって、福島原発事故当事者に限らない民衆の思想に根差した環境倫理学の樹立という目的に一つ近づくことが期待できる。 今後は、例えばインタビューの事前学習会にウェブ会議システムを使用するなどして4名の連携をもう少し密にしていきたい。 ただし、本研究は必ずしもアカデミズム外部から知恵を発掘して取り込むことだけを目指しているわけではない。倫理学理論と市井の人々の声との相互検討を通して環境倫理学を再樹立することを目指している以上、もう少しアカデミズム外部の人々にお話しいただく機会をつくるのと同時に、理論研究の充実が求められていると承知している。これを踏まえて、今後2年間で本グループ外から関連する著しい業績を残している研究者を招聘して、本グループとの共同シンポジュウム(あるいはいずれかの学会におけるワークショップ等)の実施を目指していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に実施した福島出張におけるインタビューとそれに関する各メンバーの考察を、『環境倫理』第4号として刊行することを視野に入れて予算を組んだ。しかし、19年度下半期に4名ともそちらの編集・執筆に割く時間が不足したのと同時に、インタビューの内容が予想より良かったのではないかという意見から、メンバー間で商業出版を目指したらどうかという合意に至り、現在刊行をストップしている。したがって、その分の予算がほぼ繰越金となった。 申請書執筆当初、『環境倫理』を毎年刊行する予定だったので各年印刷費を多めに計上した。商業出版への打診はこれからなので、繰越金のうち400,000円は4名に均等になるように配分し、各人の旅費及び物品費の充実を図る。残りは代表者分として配分し、印刷費にプラスして計上したい。
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