研究課題/領域番号 |
19K00018
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研究機関 | 國學院大學 |
研究代表者 |
金杉 武司 國學院大學, 文学部, 教授 (00407660)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | クオリア / 素朴実在論 / 直接知覚説 / 反自然主義 / 多元的実在論 / 知識論証 / 視点 / 現象学 |
研究実績の概要 |
本研究は、以下の仮説①~③が妥当であることの論証を目的としている。①クオリアの反自然主義の立場にとって最適な存在論的理論は、クオリアを、有視点的(視点内在的)存在でありながら、世界の側の事物が持つ客観的な性質として位置づける素朴実在論である。②そのようなクオリアの存在論的理論と最も適合する知覚の哲学理論は、①のように位置づけられるクオリアが知覚や感覚において直に与えられているとする直接知覚説である。③②のような直接知覚説は、知覚理論として、センスデータ説・副詞説・志向説といった他の知覚理論に比べても十分に妥当性を持つ。 また、自然主義的世界観と反自然主義的世界観の対立というより大きな文脈において、反自然主義の包括的な存在論的理論としての多元的実在論を構築するための土台をつくることも目的の一つとしている。 2019年度は研究実施計画に従い、以下の研究を実施した。1)クオリアの反自然主義を擁護する代表的な議論(思考可能性論証および知識論証)や、内在説や志向説・素朴実在論などのクオリアの存在論的理論に関する近年の議論をサーヴェイし、議論状況・争点を整理した。2)その上で、知識論証こそが、クオリアの有視点性を的確に捉えている点で、反自然主義にとって本質的な議論であることの論証を試みた。3)センスデータ説や副詞説・志向説・直接知覚説などの知覚の哲学理論に関する近年の議論をサーヴェイし、議論状況・争点を整理した。4)クオリアの有視点性の内実を明らかにするために、現象学的な知覚理論における志向性や射映に関する議論を参照した。5)2)の論証の妥当性を高めるべく、ハンガリー・中央ヨーロッパ大学に短期滞在し、T・クレイン教授と議論した。6)反自然主義の包括的な存在論的理論としての多元的実在論を構築するための土台の一つとして、メタ倫理学における多元的実在論の擁護を試みる論文を執筆・刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度の研究実施計画では、上記「研究実績の概要」の1)2)4)5)6)のほかに、クオリアの有視点性を最も的確に捉えることのできる存在論的理論が、クオリアを、世界の側の事物が持つ客観的な性質として位置づける素朴実在論であることを(有視点性と客観性の両立可能性を含めて)論証することも予定していた。しかし、当初は2020年度に実施を予定していた上記「研究実績の概要」の3)を前倒しして2019年度に実施することとなったため、その予定を実行することができなかった。2020年度に予定していた研究を前倒しした理由は、上記「研究実績の概要」の4)を実施する上で、より大きな文脈において現象学的な知覚理論について考察する必要性が生じ、その前提として、上記「研究実績の概要」の3)を実施する必要性が生じたためである。 以上のように、2019年度の研究は全般的に、当初の予定よりも、既存の議論をサーヴェイし、議論状況・争点を整理する作業に多くの時間を割くことになり、論証を構成し、研究発表を行ったり論文を執筆したりする時間が少なくなってしまった。上記「研究実績の概要」で示した2)の論証も、同5)に示したT・クレイン教授との議論を経て、論文として完成させるまでには至っていない。研究の成果を具体的に示すという観点から考えると、この点で、現在までの進捗状況はやや遅れていると判断せざるをえない。
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今後の研究の推進方策 |
上記「現在までの進捗状況」に記した通り、2020年度は、2019年度に前倒ししたサーヴェイ研究に代わり、2019年度に実施できなかった論証構成の作業を行うことになる。そのための準備となるサーヴェイ研究は2019年度までにある程度実施済みであるため、2020年度の論証構成の作業は比較的円滑に進められる見込である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度中に、2020年度に予定していたサーヴェイ研究を前倒しして行う必要性が生じたため、当サーヴェイ研究に必要な諸文献を購入する必要性が生じた。また、2020年度4月に海外出張の予定が生じ、海外渡航中に使用するモバイルプリンタを2019年度中に購入する必要性も生じた。これらのことから、2019年度中に20万円(直接経費)の前倒し支払い請求を行うことになった。 しかし、諸文献の購入を、前倒し金の交付を待って2月にカードで行ったため、収支簿上は2020年4月の支払いの扱いとなってしまった。そのため、上記の次年度使用額が生じた。
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備考 |
【研究会での研究発表】 金杉武司「規則のパラドクスに関する野矢の論考について」、ア・プリオリ研究会(オンライン開催)、2020年3月20日
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