本研究は、以下の仮説①~③の妥当性の論証を目的としている。①クオリアの反自然主義の立場にとって最適な存在論的理論は、クオリアを、有視点的存在でありながら、世界の側の事物が持つ客観的な性質として位置づける素朴実在論である。②そのようなクオリアの存在論的理論と最も適合する知覚の哲学理論は、①のように位置づけられるクオリアが知覚や感覚において直に与えられているとする直接知覚説である。③②のような直接知覚説は、知覚理論として、センスデータ説・副詞説・志向説といった他の知覚理論に比べても十分に妥当性を持つ。 また、自然主義的世界観と反自然主義的世界観の対立というより大きな文脈において、反自然主義の包括的な存在論的理論としての多元的実在論を構築するための土台をつくることも目的の一つとしている。 2021年度は研究実施計画に従い、以下の研究を実施した。1)前年度の研究成果を示す論文を刊行した。2)方法論的自然主義の妥当性を前提し、知覚の哲学的理論に関する、哲学的直観に訴えるだけのアプリオリな評価ではない評価の方法とはどのようなものであるべきかを明確にすることを試みた。3)2)の評価方法の下で、直接知覚説にとって最大の問題と考えられる錯覚・幻覚の問題(錯覚論法・幻覚論法論駁の課題)に取り組み、直接知覚説が十分に妥当であることを論証することを試みた。その手掛かりとして、M・G・F・マーティンやW・フィッシュらによる選言説の議論を参照した。4)2)や3)の試みの妥当性を高めるべく、研究会での発表等を通して他の研究者と議論し、その成果を示す論文を執筆・刊行した。5)本研究の成果を一部に含む反自然主義的な多元的実在論の構築の土台の一つとして、「規則のパラドクス」に関する研究を発表した。6)多元的実在論を構築する新たな研究計画を作成し、その計画は令和4-7年度科学研究費基盤研究(C)として採用された。
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