疫病、自然災害、あるいは思いもかけない僥倖、等々、我々の社会には「運」の要素が不断に織り込まれ、この要素に大きく左右されているように思われる。そうした不確実性のなかで、自由や意志という概念、および人生の意味や幸福といった諸価値がいかに見出され、確保されうるかを、思想史の展開を踏まえて検討し直す本研究の成果は、この要素をしばしば等閑視しがちな哲学・倫理学の傾向性を批判的に捉え直す学術的意義をもつと同時に、社会において過度に虚無主義に傾く風潮や過度に自己責任を強調する風潮などに抗する論理と視角を提示する意義をもっている。
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