本年度の研究実績として、2022年度の主たる研究成果である、早川千絵監督を招いての映画『PLAN 75』上映会&トークイベントの活動報告とその分析を挙げる。国内外でなんどかポスター報告を行ったほか、早川千絵監督には作品制作や関連作品にかかわる追加インタビューを行った。また、『PLAN 75』の映画パンフレットへの寄稿「「ただ生きて存(あ)る命がリスペクトされる未来を創りたい」(大谷、2022)が目にとまり、働き手が現在より2割減る2040年をテーマにした朝日新聞の2024年年頭連載『8がけ社会』の最終回で上記イベントが取り上げられ、若者の変化と8がけ社会に関する代表者のコメントが掲載された(2024年1月13日)。 リーズ大学障害学センターのアンハラッド・ベケット教授による講演「Vulnerable Personhood and Social Exclusion」では、生命倫理のフレームに基づく政策のもと、COVOD-19パンデミック下で英国の障害・難病のある研究者がおかれた厳しい状況が報告された(2023年11月27日、生存学研究所主催招聘研究会)。 なお、本年度は、所属研究機関の所長であった立岩真也氏の闘病に伴う所長職就任と氏の急逝への対処に忙殺されることとなった。これらの諸事は、いずれも本課題の核心に通底するものであり、はからずも本課題の多相性を「生きられた経験」として検討する機会となり、そこで得た思索を、氏を追悼する取材や小論として結実し得たことを、特に記しておく。 本課題を遂行するに当たっては、関連イベントにおける情報保障(文字通訳・手話通訳)とハイブリッドによる移動アクセシビリティの有無が常に問題化された。移動・情報のアクセシビリティは、人と人、人と社会をつなぐ基盤であり、「患者主体の医療」にリアリティをもたらすものであることが、あらためて確認された。
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