| 研究課題/領域番号 |
19K00027
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| 研究機関 | 東京大学 |
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研究代表者 |
高山 守 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 名誉教授 (20121460)
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| 研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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| キーワード | 手話言語 / 画像言語 / 視覚言語 / 画像思考 |
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| 研究実績の概要 |
本研究の第一の目的は、手話言語が、音声（聴覚）言語とは根本的に異なる言語性格をもつ言語、つまり、画像（視覚）言語であるということ、このことの意味と内実を探求することである。この第一の研究課題を遂行することにおいて、これまでに明らかにしたことは、手話言語が画像言語であるのは、単にそれが身体言語、つまり、手を中心とした身体動作によって表現される言語であるからということ－－手話言語が画像（視覚）言語であることの外的な理由－－にはとどまらないということである。それ以上に重要なのは、手話言語使用者（ろう者）が、画像そのものによって、自らの思考を遂行するということである。これは、ろう者によって個人差があるところなのだが、これまでに明らかになった限りでは、多くのろう者が、手話言語によって自らの思考を遂行する以前に、画像そのものによって、自己思考を展開しているのである。これを画像思考とよぶとすれば、このことが意味することは、手話言語表現が遂行されるに際しては、それに先だって、もしくは、それと同時に、画像思考が行なわれているということである。そうであるとするならば、手話言語は、自ずと画像言語とならざるをえない。つまり、手話言語は、いわば自然に、画像を身体表現化した言語となると考えうる。なぜなら、そうでなければ、ろう者において、自らの思考と、その思考の対話的表現としての手話言語とが、乖離してしまうからである。これこそが、手話言語が画像（視覚）言語であることの内的な理由であると言うことができよう。そして、このことが、まさに、手話言語が画像（視覚）言語であるということの本来の意味と内実であるように思われる。この研究成果は、研究協力者である中山慎一郎氏との共著論文「手話言語の画像性」（『理想』第704号、理想社、2020年5月刊行予定）にとりまとめた。
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| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究は、まずは、手話言語が画像（視覚）言語であるということの意味と内実を十全に明らかにすることに向けられた。一般的には、この意味と内実は、手話言語が身体言語であるということ、つまり、手を中心とした身体動作によって表現される言語であるということにあると考えられている。しかし、その限りでは、音声言語においては音声によって表現される物事が、手話言語においては身体動作で表現されると了解され、両言語の相違はこれにつきると考えられかねない。だが、両言語の相違は、より根本的なのである。というのも、手話言語においては、画像そのものによる思考（画像思考）という、音声言語には見られないと言いうるであろう特有の思考形態が、先行的、もしくは同時的に遂行されるからである。この画像思考という思考形態は、一般的に、つまり、音声言語モデルで考えられている思考形態とは、根本的に異なる思考性格をもちうるのだが、手話言語とは、こうした画像思考と一体の言語であると見なされるのである。
これこそが、手話言語が画像（視覚）言語であるということの本来の意味と内実であると考えられるのだが、この点については、本年度の研究は十分な成果が上げられたと考える。
だが、それでは、こうした特有の意味と内実をもつ画像言語としての手話言語の特有性とは、具体的にいかなるものなのだろうか。これについても、一定の具体像は呈示した。すなわち、音声言語モデルにおいては、因果関係と了解される事象内容が、手話言語においては、充足理由の提示として語り出されるということである。しかし、哲学的観点のもとで具体的に把握されるべき手話言語の特有性は、これにとどまらず、言語論的、あるいは、存在論的・認識論的な問題領域に大きく広がっていると考えられる。今年度は、こうした論点にももう少し踏み込みたかったが、十分にはなしえなかったかと考える。
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| 今後の研究の推進方策 |
まずは、研究環境に関してだが、これまでは「手話言語論文作成フォーラム」と名づけた、ろう者7名、聴者8名という固定メンバーからなる会を運用してきた。今後もこの会を継続的に開催し、ろう者から手話言語に関する情報を直接受けつつ、そのつど議論を展開していくことを、研究の基盤としたい。ただ、今後は、かつて開催していた「哲学手話の会」を再開して、不特定多数のろう者および聴者からなる会において、上記フォーラムの論議を、手話言語に関わる多くのろう者・聴者に呈示し、論議を行なっていきたいと考えている。
次に研究内容に関してだが、本研究の最重要の論点は、手話言語が特有の意味での画像言語であるということである。つまりそれは、手話言語が画像思考というきわめて独特の思考形態と一体であるということである。このことの哲学的な意味は、まちがいなく大きい。というのも、それは、カント以来顕著に顕在化した直観と思考の二元論という、哲学の論議におけるもっとも根本的な認識論的構図に、端的な再考を迫るものとなりうるからである。すなわち、直観的もしくは感性的な受容内容の大部分は、視覚感覚つまり画像情報であるわけだが、この言語においては、この受容内容に関する思考形態もまた、画像思考（および、それと一体である手話言語思考）という画像形態をとるのである。ここにおいては、感性的な受容内容と能動的な思考形態――一般的な意味でのシニフィエとシニフィアン――が、完全に一体の「画像」なのである。とりあえず抽象的な表現になるが、ここに、直観および思考という両者一体の存在論的画像世界とでも言いうる、特有の世界の成立を見ることができそうなのである。今後の研究課題は、この特有の世界像の具体的な提示であるが、「手話言語論文作成フォーラム」および「哲学手話の会」の運用は、ひたすらこの課題遂行のための方策である。
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| 次年度使用額が生じた理由 |
昨年度末に、当研究遂行のため、ろう者との研究交流が計画されていたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、ろう者との面談が困難となり、このための予算が未使用となった。今後もこの困難は容易に解消されない状況ではあるが、可能な限りで、徐々にこの研究交流を再開し、研究を進捗させるとともに、予算執行に努める。
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