2023年度は,まず,本研究課題からの成果の一部として前年度に出版した井頭昌彦(編著)『質的研究アプローチの再検討――人文・社会科学からEBPsまで』(勁草書房)に対するリアクションに対応した.具体的には,関東社会学会での招待講演「質的研究手法のための理論武装の仕方を社会科学方法論争から学ぶ」(テーマ部会B「新しい調査法と社会調査教育」)を行い,また関連諸分野での同書籍に対する複数の検討会に招聘されて議論を行った.なお,関東社会学会での講演は,部分的な改変を経て「質的研究におけるHARKing」と題した招待論文として当該学会機関誌に掲載される予定である.また,本研究課題からのさらなる成果報告として,京都大学文学部において,「プラグマティズムと側面図(side-view)の描き方――Sellars、Price、Carnap、Brandom(Rorty)――」と題した研究発表を行った.当該発表においては,まず,John McDowellの哲学構想が抱えるジレンマを指摘しその解消方法を提案するHuw Priceの議論を叩き台にしつつ,《我々の概念体系全体を外側から眺めるような形而上学的視点》を回避しつつ諸言説に対する側面図を描くという「非形而上学的側面図構想」を打ち出した.つぎに,この構想に連なる先行哲学者としてW. Sellars、Price、R. Carnapをとりあげその側面図構想にどのような移動があるかを整理しつつ,どのような形態の側面図構想がもっとも有効であるかを分析し,そのもとで処理可能な哲学的課題のリストアップを行なった.最後に,現代プラグマティズムの中心人物であるR. Brandomが展開する諸議論をこの側面図構想のもとで再整理し,そのうえでBrandomやその後継者が想定するよりもさらに形而上学的要素を絞り込んだ議論が可能であると主張した.
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