研究課題/領域番号 |
19K00035
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤川 直也 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (40749412)
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研究分担者 |
橋本 龍一郎 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (00585838)
鈴木 貴之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (20434607)
保前 文高 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (20533417)
三木 那由他 大阪大学, 文学研究科, 講師 (40727088)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | モデル論的意味論 / 心理言語学 / semantic universal / 自閉スペクトラム症 / メタ意味論 / 意味論 / 語用論 / 言語哲学 |
研究実績の概要 |
言語に関する現代の科学的探求は、生物言語学、心理言語学、言語認知神経科学などの心理学・生物学的アプローチと、形式意味論、計算言語学、自然言語処理などの数理的アプローチとに大別できるが、それぞれのアプローチにおいては、方法論的な違いのみならず、基礎概念の理解においても食い違いが見られる。こうした状況はとりわけ言語的意味に関する研究において顕著である。こうした現代の言語科学的探求における意味概念の多様性を踏まえつつ、本年度はまず、前年度の研究で得られた成果をもとに、モデル論的意味論と心理言語学、言語認知神経科学の接続についての研究を進めた。具体的には、モデル論的意味論における表示を心理的な意味計算のモデルとみなす計算論的な見方のもと、モデル論的意味論を用いて記述される意味論的な普遍的特性(semantic universal)についての心理学的な探求に着目し研究を進めた。ここでの研究成果を公表するため、科学基礎論学会2020年度秋の研究例会においてワークショップ「自然言語の形式意味論と心理学」をオーガナイズした。そこでは、意味研究における実験的手法、意味論的な普遍的特性の学習可能性の観点からみたモデル論的意味論と心理言語学の接続、自閉スペクトラム症(ASD)の学習・認知様式と、個人差から見た言語の普遍性の問題について論じられた。本年度はさらにこのワークショップの成果を踏まえ、ASDと意味論・語用論の関連に着目した研究を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、言語科学における意味概念について、次の三つの課題に取り組む。課題(i) 原理的なレベルでの対立、すなわち、内在主義と外在主義の対立を調停する。 課題(ii) 実践的なレベルでの意味概念の多様性を包括する体系的な意味理論を提示する。 課題(iii) 形式意味論と言語認知神経科学・心理言語学が共同する新たな研究分野を提案する。本年度は課題(ii)と(iii)に関する研究を行った。(ii)については、前年度に明らかにしたモデル論的意味論の表示に対する計算論的な見方が心理学的言語理論にも具体的に見られるということを、意味論的な普遍的特性の研究において確認した。また(ii)と(iii)の研究を並行して進めるなかで、ASDの認知様式の特異性と意味論的な普遍的特性との関連を検討するという課題が浮かび上がり、ASD研究を踏まえた実証的な心理学的研究の準備を開始するにいたった。当初の計画では(iii)の研究は最終年度に予定されており、研究は予定以上に順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの研究で得られた成果に基づいて、次の研究を行う。(i)モデル論的意味論と言語認知神経科学・心理言語学との接続の基礎となった計算としての意味という考え方の一般化を試みる。特に自然言語処理研究における意味概念との接続を検討する。同時に、計算としての意味という立場に対するメタ意味論的な考察も進める。(ii)モデル論的意味論と心理言語学の接続を具体化する。特に言語獲得と言語障害に関する心理学、認知経科学的な知見と意味論的な普遍的特性の候補についての形式意味論の研究との関連に着目し、本研究で言語獲得形式意味論・言語障害形式意味論と呼ぶ研究分野における具体的な提案を行う。すなわち、形式意味論を言語獲得・言語障害についての心理学的な研究の仮説形成に用い、実証的な研究を行う。なお、当初の研究計画にあった研究者招聘や研究会の開催や研究発表はCOVID-19関連の状況のため計画通りに実施できるかどうか不透明である。状況に応じて必要な代替策を講じることで対応する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の世界的な流行により、当初計画していた出張、海外からの研究者招聘が行えなかったため。招聘に関しては2021年度も見通しが立たないため、研究の進捗が見込める言語障害形式意味論の調査・実験の経費として用いることを計画している。
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