研究課題/領域番号 |
19K00037
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研究機関 | 福岡県立大学 |
研究代表者 |
神谷 英二 福岡県立大学, 人間社会学部, 教授 (40316162)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 都市モダニズム / 断片化 / ベンヤミン / 遊歩者 / シネ・ポエム |
研究実績の概要 |
1920-30年代の日本における都市モダニズムの文学者が、ベンヤミンの言う「遊歩者」であり得るという仮説が本研究の出発点である。この時期、モダニズムの芸術運動は世界同時的に進むとともに、芸術間の交流が著しくなり、特に文学と映画、文学と絵画、文学と音楽の交通と越境に興味深い現象が発生している。また、都市モダニズムは芸術に限らず、都市文化全般に広がり、その起点に、詩雑誌・文芸雑誌があったことが重要である。ベンヤミンによれば、街路名により都市は言葉の宇宙となり、解読可能なテクストとして、遊歩者である芸術家・詩人に示される。だが、それは19世紀パリのような解読を待つテクストでなく、スクリーンとしての頭脳に映る猛スピードで飛び去る形象であり、断片化による描写が不可欠と言える。 こうした問題意識で公刊した論文の第1部では、都市モダニズム文化を詩に昇華させる方法として、映画的芸術としてのシネ・ポエムに焦点を当て、竹中郁の「ラグビイ」を代表とする『詩と詩論』同人や関係の深い詩人のシネ・ポエム作品と詩論を扱った。 さらに、年度後半に取り組んだ第2部では、日本のモダニズム芸術の中で、主にフランス映画の影響を受けて、一時、輝きを放ちながらも短期間で消えていった「シネ・ポエム」に関する詩論を取り上げ、再検討を試みた。まず、詩誌『詩・現実』に掲載された神原泰のシネ・ポエム論を取り上げた。彼の理論は現実の重視と正確さの追究に特徴があり、カメラによる現実のビジュアライズを重視する。次に、シュルレアリスム芸術からマルクス主義芸術への移行をめざした詩誌『リアン』における竹中久七によるシネ・ポエム批判を検討した。最後に、春山行夫や『詩と詩論』の影響を受けながらも独自の展開を見せた折戸彫夫の詩学とシネ・ポエム論について論じ、折戸の詩論が竹中久七の批判を乗り越える可能性を持つものであることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に基づき、資料収集と分析はおおむね順調に進んでいる。また、研究成果の公表も予定通り行うことができている。
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今後の研究の推進方策 |
当該研究はおおむね順調に進展しているため、現時点では当初の研究計画につき、大幅な変更は必要がないと考えており、計画通り研究を進める予定である。 ただし、ウクライナ情勢の影響で、購入を予定している外国文献の一部が入手困難になるおそれがあり、その場合には他大学等の研究機関に所蔵されている文献を活用することを想定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
30円という少額であり、経費執行に伴う誤差の範囲と考える。翌年度分の助成金とともに文献等の研究資料購入に充てる。
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