研究課題/領域番号 |
19K00041
|
研究機関 | 國學院大學 |
研究代表者 |
藤野 寛 國學院大學, 文学部, 教授 (50295440)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | アドルノ / 歴史哲学 / 美学 / 『美的理論』 / 『美学講義1961/62』 / ゲオルク・ベルトラム / 批判理論 |
研究実績の概要 |
本研究はアドルノの哲学を主題とする申請者の個人研究であると同時に、申請者が久しく続けている共同研究の枠内で遂行されるものでもある。 社会思想史学会は2020年度の第45回大会シンポジウムを「社会批判はなおも可能か?」というテーマで開催したが、申請者はその提題報告を担当することになり、「批判の規範的前提と歴史哲学」と題して研究発表を行った(オンライン開催、10月24日)。「批判の規範的前提」「歴史哲学」「客観的理性」「感性的・美的(合)理性」「ホネットの社会主義」を主題的に考察した上で「今日、社会批判はなお可能か」という問いと取り組んだこの報告は、申請者にとって、35年に渡る「フランクフルト学派の批判的社会理論」研究の一つの総決算をなすものと位置付けられるもので、本年度はこの課題との取り組みに全力を傾けた(報告をもとに著わした論考「批判の規範的前提と歴史哲学」は『社会思想史研究No45』(2021年8月刊行)に収録される。 西村誠氏と申請者を中核として長らく継続してきた「美学研究会」はコロナ禍によって直撃され、2020年2月から中断を余儀なくされたが、冬学期の開始とともにZOOMによるオンライン開催という形で再開することになった。従来同様、月に一度のペース(11月1日、12月13日、1月24日、2月21日、3月28日)で『否定的弁証法』『美的理論』をドイツ語原点で読み、ディスカッションしている。(オンライン開催によって被るダメージは予想外に小さいことが判明している。) この研究会を母体としてアドルノの『美学講義1961/62』を共同で翻訳し刊行するというプロジェクトも、出版社が見つかる目途が立ち、再び動き始めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は三本柱から成り立つものであるが、そのいずれもコロナ禍によって直撃され、停滞を余儀なくされている。 まず「美学研究会」であるが、上記のように、2020年2月から10月まで中断を余儀なくされた。(ただし、ZOOMによるオンラインでの研究会が予想以上に充実した内容で開催可能であることが判明し、この問題は現時点ではおおむね解消されている。) 第二に、申請者がベルりンの「ヴァルター・ベンヤミン・アルヒーフ」に赴いて、所蔵されているアドルノの遺稿の内、『美学講義1961/62』『歴史哲学入門講義1957』を閲読し筆写するという作業も、オンライン上での閲読が認められないため、中断を余儀なくされている。(この1年間は、ドイツに入国する機会を見出しえなかった。) 第三に、ドイツから若いアドルノ研究者を日本に招き、講演会および研究会を開催して学問的交流をはかる、という企画についても、コロナ禍状況では、断念せざるをえなかった。(招聘を打診し内諾を得ていた Juliane Rebentisch 氏は、コロナ禍によりお父様を亡くされた。) とはいえ、個人研究の点では、積年の研究成果を社会思想史学会シンポジウムでの提題発表「批判の規範的前提と歴史哲学」にまとめることができたので、「遅れている」ではなく「やや遅れている」の評価とした。
|
今後の研究の推進方策 |
申請者は、2021年度、勤務校の國學院大学より「国外派遣研究」を認められ、2022年3月までの1年間、ベルリン自由大学にてゲオルク・ベルトラム教授を受け入れ教授として、研究に専念することができることになった。(コロナ禍のため、出国は若干遅れ、5月末を予定している。) したがって、2021年度は、ベルリンにてベンヤミン・アルヒーフでのアドルノの講義原稿の閲読・筆写に存分に時間と熱意を注ぐことができる。 ドイツのアドルノ研究者を日本に招聘するという企画については、申請者が日本を不在にするため、本年度ではなく、来年度の実現を目指し、そのための準備、交渉につとめたい。(申請者がドイツに滞在することは、この点では好都合となろう。) 本研究の三本柱のうち、その中心となる「美学研究会」については、ZOOMによるオンラインでの開催が予想以上に充実した内容で可能であることが判明したのみならず、まさにZOOMを用いることによって、申請者が身体的には日本を留守にするにもかかわらず、研究会に共に参加することが可能である、という状況が実現した。したがって、本研究会については、コロナ禍の今後の推移に関わりなく、というよりむしろ、コロナ禍のおかげで、申請者もドイツから参加して、当初の予定通り月に一度のペースで開催できると考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍という状況の下で、本研究の三つの柱のいずれも、実施することが不可能になった。 具体的には、第一に、月に一度のペースで行われる研究会に京都在住の西村誠氏が上京されるための交通費、第二に、夏、さらには春の長期休暇期間を利用して申請者がドイツに赴き、ヴァルター・ベンヤミン・アルヒーフ所蔵のアドルノ講義録を閲読・筆写するための往復交通費とベルリン滞在費、第三に、ドイツから若手のアドルノ研究者を日本に招聘し、講演会・研究会を開催して学問的交流をはかるための、同じく往復交通費、東京滞在費、講演謝金を支出する機会が見出せなかった。
|