本年度の研究実績としては、第一に、ほぼ月に一度のペースで合計13回の「美学理論研究会」を5~10人の参加のもと開催(ZOOM)したこと、第二に、申請者が8月に四週間、ベルリンのヴァルター・ベンヤミン・アルヒーフに赴き、アドルノの『歴史哲学講義(1957)』を閲読、筆写したことが挙げられる。 「美学理論研究会」では、2006年この方、アドルノの哲学的主著である『否定弁証法』と『美的理論』を原典購読しディスカッションすることを継続してきた。その過程で並行してさらに『美学講義(1958/59)』を読み進めてきたのだが、アドルノ美学を理解する上で極めて重要なこの講義を翻訳し、日本の読者層に届けようという企画が立ち上がり、研究会メンバーの分担協力のもとに翻訳作業に取り組んできた。本年度はその最後の詰めの作業を行い、その結果、翻訳原稿が出そろうところとなった。出版社も決まり、そのゴーサインを待つのみとなっている。 ヴァルター・ベンヤミン・アルヒーフでのアドルノ『歴史哲学講義(1957)』の閲読、筆写は、申請者が2022年から継続してきたものだが、本年度は、閲読の結果、1957年夏学期の講義を8回分筆写することができた。後は2回の講義を残すのみとなっている。 研究期間全体を振り返ると、掲げられた三つの課題のうちの二つ、つまり、「美学理論研究会」の継続開催と、 ベンヤミン・アルヒーフでのアドルノ『歴史哲学講義(1957)』の閲読、筆写については、計画通りに実践できたと言える。 第三の課題である、ドイツから2~3人の若手アドルノ研究者を招聘し共同研究会と講演会を開催するという企画については、何よりもコロナ禍に見舞われ、その後の日程調整がかなわなかったこともあり、残念ながら実現することができなかった。
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