研究課題/領域番号 |
19K00042
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
櫻木 新 芝浦工業大学, デザイン工学部, 教授 (90582198)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 記憶の哲学 / コーパス調査 / 記憶概念 |
研究実績の概要 |
2019年度は、国際ワークショップでの研究発表を1件行ったほか、以前から取り組んで来た本研究テーマに密接な関係を持つ論文を1編公刊した。 研究発表のタイトルは"On Philosophical Analysis of “Remembering“:From a Japanese point of view"。発表した国際ワークショップは"Remembering: Analytic and Bergsonian Perspectives (Franco-Japanese workshop)"(フランス・グルノーブルアルプス大学)。経験的な調査に基づく日本語と英語の記憶表現の比較をテーマに、日本語話者と英語話者の言語直観の相違について過去に行った調査概要の説明と、両言語の大規模コーパスの調査を基にした"remember"の用法の伝統的な区別への疑問を提示した。 公刊論文のタイトルは"On Philosophical Concepts of Memory"。Lo Sguardo第29号、記憶の哲学特集第1巻に掲載(査読あり)。本研究課題に深く関係する経験記憶と命題記憶の二つの哲学的記憶概念の擁護がテーマ。同論文は2018年に行われた国際会議での発表を端緒とし、本研究課題の開始以前から継続的に取り組んで来たものだが、査読コメントへの応答に上述のワークショップでの議論を踏まえるなど、2019年度に入ってからの研究の進展が反映されたものである。 これらの研究成果の他、2019年度7月の記憶の哲学についての国際会議(IPM2)への参加と上記ワークショップを通じて、記憶の哲学研究所(グルノーブル・アルプス大学)を運営するKourken Michaelian教授との既知を得て、今後の本課題の進展に大きく関係する共同研究に取り組むことに合意した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は(1)哲学と心理学においてそれぞれ提唱される記憶概念の比較・検討、(2)文献調査・コーパス等の活用を通じた日英両言語における日常的な記憶表現の検討、そして(3)これらを踏まえたアンケート調査等の実験の実施方法等の検討を予定していた。 (1)については文献調査を中心に比較的順調に進捗している。また(2)についても、それまでの進捗を踏まえて、10月にグルノーブル・アルプス大学記憶の哲学研究所で研究発表を行った。この発表を踏まえて、以前に投稿した内容に大きく修正を加えた、両主題に関わる投稿論文が3月に出版されるなど、(1)(2)については、概ね順調な進展を示すことが出来た。 (3)についても、9月のフランス渡航で大きな進展のきっかけを得ることが出来た。まず、Kourken Michaelian博士(グルノーブル・アルプス大)を中心とする記憶概念に関する日常的直観を調査する共同研究に参加することとなった。さらに、パリ第一大学でもフランスでのアンケート調査を実施するための協力を取り付けることが出来た。 とりわけ、記憶の哲学研究所の代表を務めるMichaelian教授との連携を強化できたのが大きな成果であった。同教授との連携により、フランス大使館のサポート(Exploration France 2020)を得て2020年7月にグルノーブル・アルプス大で記憶の哲学に関する研究集会を企画するなど、今後の計画に大きな貢献が期待できる。 他方で、新型コロナウィルスの影響により、いくつかの予定が変更を余儀なくされている。3月に予定していた渡米が中止となるなど、特に20年度に実施を予定していた海外でのアンケート調査については、実施の可否を含めて研究計画の見直しが必要となる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年2月の段階では、7月に予定していた上述のグルノーブル・アルプス大での研究集会を目標に、一定の成果を発表することを目指していた。しかし新型コロナウイルスの影響で同集会は無期限延期となり、7月の渡航は早くとも20年度後半以降に延期される事となった。 他方で、記憶の哲学研究所のMichaelian教授とは緊密に連携を取っており、他の共同研究者も交えてZoomやメールで、今後の方針についての議論を活発に行っている。また、海外渡航か可能になり次第、9月以降の早い段階で渡仏することを想定している。 パリ第一大学で実施を予定していたフランス語話者へのアンケート調査は今のところ実施のめどは立っていない。同様にアメリカでの実施を検討していた英語話者へのアンケート調査も、2019年3月に予定していた渡米が中止となった関係で後ろ倒しになることが見込まれる。両調査とも実施の可否を含めて、今年度中に一定の方針を決める予定である。 他方で、オンラインでのセミナーシリーズが開催されるなど、研究環境については以前よりも改善した側面もある。これらの新しいリソースを踏まえて、文献調査やコーパス調査については当初の予定通りの進展を図る。また、可能であれば上述の渡仏の際にグルノーブルアルプス大学で研究報告を企図している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた物品費の大半をフランスへの旅費に振り替えたが、ほぼ予定通りの支出額に納まった。翌年への繰り越しは458円と少なく、物品費に参入する予定。
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