研究課題/領域番号 |
19K00044
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
稲垣 諭 東洋大学, 文学部, 教授 (80449256)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | パフォーマティヴ性 / 現象学 / 身体性 / 内面化 / セクシュアリティ |
研究実績の概要 |
本研究は、現代演劇及び現代美学のパフォーマティヴ性への着目を手がかりに、主体・身体を変容させるための現象学的、臨床的経験のモードがどの程度あるのかを解明することに向けられている。とはいえ、昨年度から続くCOVID-19の影響により、演劇界やパフォーマティヴ性をテーマとする美術の展示等々に様々な支障が出ている。とはいえ、その中でも継続して行われている舞台芸術の知見も取り入れながら、現象学的な身体性と臨床にかかわる個体の内面性の研究は継続して行われている。 本年度は、現象学的な分析の場でもある意識体験そのものが、より正確にはその記述スタイルが拠って立つ歴史性の分析から、「ありのままの生」という現象学的な経験が社会的な規範や制約、さらには技術的環境にどれだけ支えられているかを明らかにした。 それと同時に、そのようにして内面化される生そのものに「セクシュアリティ」が不可避に関与していること、そのパフォーマンスの在り方を、生物学的、歴史学的、社会学的、現象学的な観点から浮かび上がらせる試みを行った。 現象学的な主体性は、フッサールが当初想定していたように無前提でも無歴史的でもなく、社会的構築の影響を強く受けている。そのことは、セクシュアルな主体としても、臨床的に扱われる主体としても同様の問題として浮上する。そのため超越論的なレヴェルでの主観性の分析が必要であるにしても、社会的な軸がいくつも交差する場所に成立する主体とその変容の問題と並行的に解明することが必要になる。とりわけ、そのことは、現象学を日本に導入した新田義弘による「生と知」の現象学的な論理の問題とも密接にかかわっていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述したようにCOVID-19の影響により、当初の計画のようには舞台芸術等の作品にかかわる試みができていない。DVD等の作品を集めてはいるが、参与観察による作品の体験と分析がかなわないことが大きな支障となっている。とはいえ、そうした制約の下でも可能な限りの情報収集と現象学的な経験の分析を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度となるため、上述の制約はあるが、資料収集含め、総合的な課題の遂行および最終的な成果の提出に努める。とりわけ「パフォーマティヴィティ」の問題を、テクノロジーやセクシュアリティの固有な経験と関連付けながら、人間の主体の変容の問題として展開したいと考えている。COVID-19の感染状況に関して、こればかりは予想が立て辛いこともあり、舞台芸術という最もウイルス感染による被害を受けている分野とは独立に扱うことのできる研究領域の多様な経験も取り入れながら研究を継続したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
事務用品用の支出が年度内に行えなかったため。新年度に速やかに支出する。
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