研究課題/領域番号 |
19K00045
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
松元 雅和 日本大学, 法学部, 准教授 (00528929)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 戦争倫理学 / ドローン / 必要性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、非対称戦争においてドローン兵器を使用することの道徳的是非を、〈必要性〉に照らし合わせて分析・評価することである。令和元年度は、正戦論における〈必要性〉条件を動態的に分析し、それが交戦者の能力に応じてどのように変化するかを明らかにした。具体的には、予備的調査として、Stockholm International Peace Research Institute (SIPRI) Year Book、The War Report 2017等、各種の国際研究機関が報告する調査資料に基づき、今日の国際紛争におけるドローン兵器の使用の実態を把握した。また、〈比例性〉に関する申請者の予備的研究成果も敷衍しながら、〈必要性〉条件を精査し、その意味と動態を分析した。その成果の一端として、"Amoral Realism or Just War Morality? Disentangling Different Conceptions of Necessity," European Journal of International Relations (forthcoming)では、正戦論とリアリズムを対立的に描くことの一見した矛盾に取り組むことから出発し、必要性の二つの解釈を手がかりに、こうした複数の語用法を腑分けすることで、必要性と道徳性がはたして対立概念なのか、またリアリストが国際関係をはたして非道徳的に解釈しているのかを明らかにした。2)「国際政治思想はいかなる『理想』を語りうるか」日韓政治思想学会第15回共同学術会議(2019年7月8日)では、国際政治思想としての正戦論と現実主義を分析の俎上に載せながら、国際社会が非理想状態に傾きがちな構造的特徴を備えていること、それゆえ規範理論としての国際政治思想においては非理想理論の比重が大きくなることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、〈必要性〉に照らし合わせながら、非対称戦争においてドローン兵器を使用することの道徳的是非の分析・評価を段階的に実施する。令和元年度は、正戦論における〈必要性〉条件を動態的に分析する研究に着手した。その結果、第一に、〈必要性〉は、因果構想と目的論構想という異なった解釈を包含し、後者は自由意志に基づく目的と手段の選択を指導する道徳的判断の一種であり、その限りで必然性と道徳性を対置するのは誤りであることを明らかにした。第二に、現代リアリズム諸理論は、濃淡はあるものの、〈必要性〉を因果構想とともに目的論構想としても用いていることから、リアリストが部分的にであれ、正戦論者とともに道徳的会話に参加していることを証明した。第三に、正戦論者とリアリストの主張は依然として実質的に異なっているが、その相違は必要性の是非にあるわけではなく、むしろ、次悪の追求を本質とする〈必要性〉の考慮は、両者にとって共通の道徳的基盤となっていることを論証した。これらの研究成果を通じて、〈必要性〉の動態的分析という新たな着想に基づき、今世紀の国際紛争の現実を踏まえたより実践的な含意を引き出すという本研究の当初課題の達成に向けて、次年度以降の研究課題の基盤となる有益な知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度以降の課題は、交戦能力の顕著な格差をもたらす今日の技術革新が、〈必要性〉の観点から道徳的にどう評価されるかを論証する課題に着手することである。具体的には、国家間戦争における〈必要性〉条件の適用例として、第一に、緊急事態の閾値設定とその妥当性を批判的に検証する。第二に、非対称戦争における〈必要性〉条件の適用例として、交戦者の能力差が交戦規則の不平等適用にどう影響するかを明らかにする。なお、本研究成果の一部は、国際会議で発表することを予定しているが、現段階では海外渡航できるか未定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由としては、当該年度に購入予定の物品が当初予定よりも安価に購入できたため未使用額が生じた。使用計画としては、次年度に購入する物品費や図書費の増額に充てる予定である。
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