研究課題/領域番号 |
19K00046
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
山本 史華 東京都市大学, 共通教育部, 准教授 (20396451)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生命倫理 / 褻 / 日常 / 脳死 / 臓器移植 / 安楽死 / 尊厳死 / 民俗 |
研究実績の概要 |
本課題では、生命倫理学で論じられている諸課題の背景に「日常=褻」の観点から切り込み、どのような価値観や規範観がアクチュアルな課題に暗々裏に影響を与えているのかを追究していく。そのためにまず、医療の現場で現在、どのようなことが倫理的課題として立ちはだかっているのかを知るために、横浜で在宅医療を行っている足立大樹医師(ホームケアクリニック横浜港南)に専門的知識の提供をしてもらった。その結果、認知症、ALSのような難治患者、そして身体的な障碍を抱える人を支えていくためには何が必要か、また、彼/彼女らが抱く死生観はどのようなものであるかを具体的に知ることができた。 日本で脳死臓器移植が法的に可能になってから、すでに20年以上経ったが、脳死下での臓器移植は他の先進諸国と比較すると遅々として進んでいない。それはなぜなのか。臓器移植を遅らせる日本的なエートスの一つに、「臓器へのアニミズム的感覚」が考えられないか。また、日本には、デカルトやロックが強調した「意識的な生の在り方」だけを必ずしも肯定しない傾向があるが、それが「自己意識がなくなる前に死にたい」という安楽死や尊厳死への抵抗として現れてはいないか。 以上の問いの真相を探るため、東北哲学会第69回大会(東北大学)において「生命倫理の背後にある生・死・死後の観念」と題したシンポジウムを企画し、司会と発表(「死の前倒しに先立って考察すべきこと」)を行った。他に、提題者として、日本思想の研究者である出岡宏(専修大学)と古代ギリシア医学思想の研究者である木原志乃(國學院大學)にも登壇していただいた。当日は、質疑応答が30分以上延長されてもやむことなく、白熱した議論が交わされた。このシンポジウムの内容は、来年度に活字として出版される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日常的な医療における倫理的課題については、実際に医療現場で働く医師を招いて現状を教えてもらうことができた。また、東北哲学会の大会でシンポジウム「生命倫理の背後にある生・死・死後の観念」を企画し、発表を行った。そのために1年弱の準備が必要になったが、何度も提題者三人で打ち合わせをすることにより、自分の専門分野ではない知識を修得することができ、今後の研究の指針となったため。 だが一方で、民俗学の文献を読み込み、そこから日本ならではのエートス・死生観を摘出するという作業はあまり進まなかった。
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今後の研究の推進方策 |
学会でのシンポジウムの内容を論文として出版する予定である。大会当日に質疑応答で出された意見も参考にしながらまとめる計画である。 柳田國男の文献などを渉猟し、そこから日本人の脳死臓器移植や安楽死・尊厳死の考え方に影響を与えている日本的エートスの摘出を試みるつもりでいる。そのためには、民俗学的な方法論や民俗学的なものの読み方を知らなければならないと思われるため、民俗学関係の学会や研究会にも積極的に参加していく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費としてパソコンの購入を予定しており、実際に発注もしたが、折しも中国で発生した新型コロナウイルスの影響により、納品時期が未定になり、結局、年度内の納品が間に合わなかったため、次年度使用額が生じた。ただし、パソコンに関しては、2020年度には納品可能であるため、問題はない。 今後は、民俗学関係の書籍・資料を積極的に揃えること、また民俗学関係の学会や研究にも参加するなどして、物品費と旅費を中心に使用する計画である。
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